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2021年04月06日22:24

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立って書かれた「ユリアヌス」

辻邦生『背教者ユリアヌス』を読んだ。読む気になったのは、ローマ帝国の皇帝となったユリアヌスが後世のキリスト教会から「背教者」と呼ばれるようになった、そもそもの所以に興味を抱いたから。

ユリアヌスは伯父のコンスタンティヌス帝によってキリスト教が国教化されていた中で育ったが、皇帝に即位するとキリスト教への優遇策を改め、古代ギリシャ以来の神々への信仰、祭祀や慣習を復興させようとした。

そうしたユリアヌスが主人公だから、この作品でキリスト教徒は概ね悪者であり、キリスト教はさながらいかがわしい巨大な新興宗教のようである。貧者や病者など弱者のために尽くす修道士らには好感を抱いているものの、宮廷の宦官の侍従らにとってキリスト教は自らの権勢を広げるための手段にすぎない。またキリスト教の信仰を真剣に考えている若い司教の信仰は、ユリアヌスにはあまりにも今生きる、現にあるこの世を軽んじているように見える。この世界は、晴れた日の太陽の下での空や海のように、もっと晴れやかで明るく清々しいものなのではないか?

――この作品を評価するのは容易ではない、今の僕には。まずもって、この作品で繰り広げられるキリスト教観は正しいのか?という問題がある。これに答えるには、ローマ史の中でのキリスト教史を知る必要がある。もう少し勉強してから改めて考えてみたい。

ウェブで読んだ、辻邦生を尊敬する編集者の文で、彼が「刻苦勉励」の人だったと知った。大学教授のかたわら小説を書いていたので、夜帰宅して夕食後に机に向かうと眠くなって書けない。そのため、常に立ち机に向かって書いていたという。金曜は夕食をたくさん食べて眠り、起きると立ち机に向かい、日曜に眠くなるまで書き続けたという。


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