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2023年10月15日23:36

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安倍晋三と、神保町の盛衰と

前回のmixi日記から1月近く経つが、この間に読んだ本(読みかじりや読みかけなどを除き、読了したか、飛ばし読みでもケリをつけたもの):

1 井上ひさし『夢の裂け目』(小学館)
2 小沢信夫『東京骨灰紀行』(ちくま文庫)
3 陣内秀信・三浦展『中央線がなかったら 見えてくる東京の古層』(同上)
4 『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)
5 鹿島茂『神田神保町書肆街考』(ちくま文庫)

1は1934年11月生まれの井上ひさしが、日本の庶民にとっての戦争や東京裁判を題材にした戯曲。敗戦時に満10歳だった著者は、少年として戦争期と戦後とを生き、両者の世界観・価値観とその裂け目を生きた世代。戦争は、敗戦は、戦後は、庶民にとって何だったのか?

2と3はともに東京の近過去への探訪記だが、今の僕には詳しすぎる箇所などは飛ばすことになった。

4の安倍晋三はもともと好きではなかったが、殺害後1年余を経てそれが薄れてきたようだ。個人的に印象深かったのは、台湾の李登輝が安倍首相(当時)に靖国神社への思いを述べた箇所。「私は終戦までは日本人でした。私が戦死した兄に会えるのは、靖国神社だけなのです」という言葉には、右翼的心情をくすぐられた。安倍晋三自身の言葉では、国政選挙と自民党党首選で9連勝した長期政権を続けた理由について、一期目の挫折から学んだことを二期目は必ず実践したことを挙げていた。衆院、参院、党首選と選挙のたびに、まずは党内で首位に立つべく、自分を脅かす勢力を叩いて、必ず勝ったことを挙げていた。

5は世界最大の古書店街である東京の神田神保町の歴史を軸とする四方山話で、トピック、テーマは多岐にわたる。そもそもは現在の東京大学や東京外国語大学の前身である、政府が明治初期に創設した教育機関に地理的に近く、その教員や学生に必須の書籍、辞書類の新刊と古書を売買し、出版社が誕生したことに始まる。800ページ弱あって、内容も多岐にわたるなか、日本近代文学史や現代詩史のさまざまなエピソード、洋書類の扱い、また一口に「古書」と大別される中でも各種の分野があり、その誕生と発展、衰退の歴史や、「産業」としての出版、書店、取り次ぎなど各業種・業態の盛衰、千代田区神田神保町を中心とする隣接または離れた町々の興隆等々…。

(古書の街としての神保町の衰退の最初の兆候が、スキー用具のVICTORIA店舗の出店だったという指摘には納得。同時代者として目撃していたから)

辛亥革命前後に神保町を含む東京が中国革命運動の最大の拠点だったことは、アジア近代史の常識と思われるが、この本を読みながら興味深かったことを一つ挙げたい。この本ではその後、つまり「日中戦争のさなかにあっても、中国革命のインテリは神保町をはじめ東京ないし日本に来て、マルクス主義文献の収集と研究に多大な力を注いでいた」と強調している。当時、日本と中国の間にはパスポートもビザも不要で、治安維持法下で日本の左翼活動家は壊滅状態だったのに、当局の手は中国人にまでは及んでいなかったらしい。日本への留学や滞在の経験がなかった毛沢東を中心に描かれた主流の中国革命史では描かれることが少ないが、郭沫若や魯迅、周恩来などの巨人を除いても、「中国革命に力のあった左翼知識人に神田の書店街が与えた影響は巨大だったろう」という。――ただし、文化大革命の時代になると、日本との関係を追及されて、その多くは失脚しただろうという。(周恩来はかろうじて難を逃れたが)

他のトピックは追ってまた。




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