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2023年07月06日00:02

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鈴木しづ子、リンドバーグ夫人、坂本一亀

最近読んだ、ないし読みかけたうち、読了したのは、順不同で、

1 沖浦和光『陰陽師とはなにか 被差別の原像を探る』(河出文庫、2017年2月初版発行。元の単行本は2004年10月刊)
2 KAWADE 道の手帳『鈴木しづ子 伝説の女性俳人を追って』(河出書房新社、2009年8月初版発行)
3 鈴木しづ子・川村蘭太『夏みかん酢っぱしいまさら純潔など』(河出文庫、2019年6月初版発行)
4 リンドバーグ夫人、吉田健一訳『海からの贈物』(新潮文庫、1967年7月発行。英文原著は1955年刊)
5 田邊園子『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』(河出文庫、2018年4月初版発行。元の単行本は2003年刊)

――総じてどの本も、興味深く刺激的だった。
1は歴史・民俗学者である著者が、「陰陽師」と呼ばれた人びとが日本史の古代からの各時代と民俗において占めた様を描く。

2と3は、2冊の句集を遺して消息を絶った1919年生まれの女性俳人・鈴木しづ子の句集と評伝。3の句集には川村蘭太氏の評伝が収められ、その元は2に掲載されたもの。鈴木しづ子は、東京出身だが岐阜に転居して、米軍基地でダンサーとして働いたことや、黒人下士官との恋愛と同棲生活、性的な内容を暗示する俳句、また創作上の虚構か実体験か不詳だが、娼婦の句を発表したりしたことでのスキャンダル性と、(残された写真や周囲の人たちの証言から)背が高くすらりとした美人だったことで、異色・異端の俳人として戦後俳句の歴史で光を放つ。

4の著者は、人類史上初の単独無着陸での大西洋横断飛行で英雄になったチャールズ・リンドバーグ夫人のアン・モロウ・リンドバーグ。父親はメキシコ大使を務めた人物というから上流階級出身に違いないだろうし、恵まれた知的環境に育ったのだろうが、一切の世俗的なことは出てこない。夫の名声も、自身も世界で最初の女性パイロットの一人だったことも、6人の子を産み、5人を育てたことも(最初の子は誘拐されて殺されたことも)。一人の中年女性が家族から離れて、一人で小島に建つ質素な小屋のような建物で、長年その世話に追われた子育てや家事や世間との交渉を忘れて、一人の女として、一人の人間として、思いを、思索をめぐらす。――その姿に感銘する。

5の坂本一亀(かずき)は今年亡くなった作曲家・坂本龍一の実の父親。龍一は一人っ子だった。文庫本の帯には、「<戦後>を作った編集者」!とある。なんと大げさな!と思うが、「<戦後文学>を作った」とすればそれほど大げさではない、とも思える。それほどに、戦後文学史にとって重大な編集者だったことが分かる、この本から。日本の戦後文学を代表する作家たちがまだ若く、無名だったころに、彼らの代表作、そして戦後文学の代表作を書かせたのが坂本一亀だった。目次から拾うと、野間宏『青年の環』『真空地帯』、椎名麟三『永遠なる序章』、三島由紀夫『仮面の告白』、小田実『何でも見てやろう』、平野謙『文芸時評』など。
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