mixiユーザー(id:7131895)

2023年06月04日19:28

52 view

アメリカの「カースト制度」

最近読んだ本では、読了したのもそうでないのもあるうち、筆頭に掲げるべきが、
1 イザベル・ウィルカーソン、秋元由紀訳『カースト アメリカに渦巻く不満の根源』(岩波書店)。と、その原著
2 Isabel Wilkerson, "Caste The Origins of Our Discontents"。次いで、
3 ルーデンドルフ、伊藤智央訳『総力戦』(原書房)
4 堀内誠一の本5冊
5 佐高信『逆白波のひと 土門拳の生涯』(小学館)
6 『流域紀行』(朝日新聞社)

1の著者は、アメリカ人でニューヨークタイムズのシカゴ支局長などを歴任したフリージャーナリストの黒人女性。この本について著者は「書かねばならなかった本」という。アメリカの黒人差別の歴史と現在を描き、論じるに当たって、著者は「カースト」という、何よりもインドの数千年の歴史と特有の社会について用いられる言葉を活用する。さらに、インドと対照的に、わずか12年しか続かなかったヒトラー政権下のナチスドイツのユダヤ人差別も参照し、それらは全て各社会に根差す「カースト」によるものだとして、新大陸への植民と奴隷移入から400年のアメリカの黒人差別を照らし出す。

1961年生まれで、この本で処女作に続き2度目のピューリツァー賞を受賞した著者は、アメリカ社会ではセレブに近い存在だろうが、黒人女性である外見ゆえに、今も愉快ではない経験をすることは日常的である。例えば、黒人女性が滅多にいない飛行機のファーストクラスやビジネスクラス、空港送迎バス、高級とされるレストランなどで、その場にふさわしくない不審者か闖入者のように見られ、扱われる経験。
――ただ、こんなのは米国史で黒人たちが被ってきた悲惨な事実に比べれば、単に不愉快な思いにすぎない。数え切れない無実の人たちが、南部の集団リンチなどで公開処刑されてきたのだから。

現在のアメリカの法律には、肌の色などの身体的特徴や、民族的ルーツなどによる差別を許容する条文は存在しないが、植民地建設の最初期から数十年前までさまざまな差別的な法律が継続されてきたし、今も慣習はなくなっていない。アメリカを調査したナチスドイツは、そのその周到な差別システムに驚くとともに、取り入れた。

著者によれば、ある社会内で優位にある集団の一定数の多数派が望めば、現状のシステムが理想的ではなく、むしろ公正さにもとるものであっても、それは維持される。インドでも、ナチスドイツでも、アメリカでもそうである。著者は、「日本やヨーロッパで定着している国民皆保険やそれと同様な社会福祉制度が、なぜ世界一豊かなアメリカで実現しないのか?」という疑問に答える。「社会の底辺にあるカースト(黒人の多くやマイノリティ)を救う(オバマケアなどの)公的制度は、自分たち白人が優位にある現状を破壊してしまう」と、カーストの上位にあることに満足を覚えている人たちが恐れるからと。つまり、「万人が平等である社会の実現を阻止して、現状のまま、黒人たちより優位に立っていたい」からだと。ヨーロッパでも、南アフリカでも、カースト維持思想はこれほど露骨ではないだろう。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年06月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 

最近の日記