プレシアド著・藤本一勇訳『あなたがたに話す私はモンスター 精神分析アカデミーへの報告』の著者は、スペイン人のトランス男性(出生時は女性)。戸籍上も男性になったが、ノンバイナリーなトランスという立場をとる。プリンストンで建築学の博士号を取り、同大学などの招聘教授や美術館のキュレーターを務めたりしている。
この本は、ジャック・ラカンが創設した精神分析の「フロイトの大義」派の研究者や臨床家3500人を前にした、2019年のフランス語での講演の原稿。この講演は、内容が、フロイトやラカン自身も含めた精神分析の、家父長的、異性愛中心的、ブルジョア的、西欧中心的、白人中心的、植民地主義的傾向への、自身の立場からの批判という挑戦的、挑発的なものだった。そのため会場は大混乱に陥り、4分の1しか読めなかったが、その後に同派が分裂するに至る、というインパクトを持った。――たしかに挑発一辺倒で、ノリすぎの感もあるが、内容は的を射ていると僕は思った。
諸橋憲一郎『オスとは何で、メスとは何か? 「生スペクトラム」という最前線』は、人間のトランスジェンダー問題を生物学的に基礎づける科学的知見となるだろう。著者は九州大学教授で生物学者。長年にわたる生物の性の研究の末にたどり着いた最新の科学的成果として、オスとメスは別個に存在しているのでなく、連続体であるという。
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