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2022年02月05日06:11

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民主主義と敵対した信念

「反民主主義」の信念を表白した次の一節にハッとした。

<国民主権の理論は私の内奥の歴史的宗教的確信とはあいいれません。(中略)私は主権や大権を唯一もつことができるより高次の世界秩序を認めているからです。このより高次の世界秩序に官憲的権力は由来します。この権力が神によって与えられた職権であることは、ローマ=異教的世界もキリスト教説も述べるところです。裁判官職も神に由来し、(中略)私の職権は神に由来するものであり(後略)>(バハオーフェン著・吉原達也訳『母権論序説』所収の自叙伝より)

――こんなに明白に、「反民主主義の信念」を表白したフレーズはあまり記憶にない。これを書いたヨハン・ヤーコプ・バッハオーフェン(バッホーフェン、バホーフェンとも表記:1815〜1887年)は、スイスの文化人類学者、社会学者、法学者。サヴィニーに強く影響を受けた歴史法学派の一員。本業は法学者だが、古代法の研究を通して古代社会についての造詣を深め、これをもとにした著作を発表して文化人類学に影響を与えた。特に、古代には婚姻による夫婦関係は存在しなかったとする乱婚制論や、母権制論(1861年)を説いた。(Wikipediaより編集)

僕のバッハオーフェンへの関心は、彼が「母権制論」の創始者だったことによる。アメリカの人類学者モルガン(モーガン)『古代社会』やエンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』などに多大な影響を与えたとされる。手元の本は値段が手頃だからまず入手した。序説だけだし、まだ読んだのは解説(上山安敏)と、冒頭の半生記だけだが、ある程度のことは分かった。

生年はカール・マルクスより3年早く、マルクスが『共産党宣言』を書いた1848年に起きた、地元スイス・バーゼルを含むヨーロッパ各地での民衆蜂起や反乱を(騒擾として)文中でも生々しく振り返っている。彼は裁判官として、こうした動きを制する側にいたわけである。何十年か前に「アジール論」の古典的名著を書いたドイツ人法制史家も裁判官であったから、ヨーロッパでは裁判官が法学者でもあることが珍しくなかったのだろう。

バッハオーフェンはまずはローマ法の学者として古典に親しみ、読み尽くした。イタリアやギリシャへの旅行によっても、古代世界に憧れた。小国スイスの人のためか、ドイツやフランス、イギリス、イタリアでも学んでいる。カトリック教徒だと思われるが、イタリアで古代墓碑銘の、さらにキリスト教誕生以前の古代の豊かさに出会い、母権論より少し前に『古代墳墓象徴試論』を世に問うている。ともかく、後世の実証的研究で否定されるとはいえ、キリスト教会や聖書に支えられてきた「父権制」が自明だとの通念を揺るがせることになった。

民主主義云々については自伝では上記引用以上には論じられていないが、キリスト教の教えであれ、それ以前の古代の神々の世界であれ、バッハオーフェンは、民主主義は官憲的権力が由来する「神的な権威」に反すると信じていた。

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