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2021年07月21日01:06

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死者が死者を悼む(5) 火野葦平『陸軍』 

週末に火野葦平の小説『陸軍』(中公文庫で上下2冊)を読み、読了。

この長編は太平洋戦争のさなか、1943年5月1日から翌44年4月25日にかけて朝日新聞に連載された。単行本は『小説陸軍』として終戦の玉音放送の日、1945年8月15日印刷、8月20日発行だったが、日本が敗戦という有史以来未曽有の困難に叩き落された中で、廃棄処分の憂き目にあったと考えられる(村上兵衛の文庫版解説による)。中公文庫版として日の目を見たのは、実に55年後の2000年8月だった。

明治以来の日本陸軍の歴史を一つの物語に収めようという、とんでもなく野心的な企てではある。物語は北九州小倉の商家、高木家の家系を主軸に、同じく時間軸に乃木希典から譲り受け、代々の家宝になってきた赤瓢箪をもう一つの縦軸に展開される。北九州とは対岸の長州との幕末の長州戦争を皮切りに、西南戦争や日清、日露、第一次世界大戦、太平洋戦争など近代の主要な戦争と、同家の時々の当主や家族、親戚、知り合いと陸軍および戦争との関りが描かれる。

この高木家は将軍や士官も輩出したが、筆者が最も力を注いだのは、一兵卒として中国戦線とフィリピンの戦場で年月を過ごした人物である。ただ戦場で華々しい戦功を挙げるよりも、病を得て戦場に出られなかった期間が長いような人物である点で、『麦と兵隊』や『土と兵隊』などと同じく、「兵隊目線」で日本陸軍史の一端が描かれていることに火野葦平らしさがある。




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