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2021年06月05日15:39

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死者が死者を悼む(1) 小泉信三・信吉 

文字通りにはファンタジーまがいの変な表現だが、このところ読む本に触発されて、「死者が死者を悼んでいる」としばしば浮かんだ。事態を正確に言えば、死者を悼んでいる著者は既に故人、つまり死者だ、ということ。こう書くとなんのことはないが、読んだ・読みかけた本が現在から地続きの時代を描いているせいか、いつになく「死者が死者を悼んでいる」感を強く覚えた。

まず読みかけてその感が強く、後で読もうと思ったのが小泉信三『海軍主計大尉 小泉信吉』。著者は福沢諭吉の教え子で経済学者。慶應義塾塾長や皇太子(現上皇)の教育係を務めたが、長男の信吉(しんきち)は1942年に満24歳で戦死していた。この本は元々は戦争中にわが子の思い出を書き、戦後に私家版としたものだが、文藝春秋の編集者だった半藤一利さんが尽力して、1966年の著者没後に同社から刊行された。つまり、同書の全編で息子を悼む著者自身が亡くなって今や半世紀以上が経っている。繰り返すと、この本は父親が戦争で夭折した息子を悼む本だが、その父親もとうにこの世にない。そして昭和史・近代史の巨人、半藤さんも今年1月に亡くなった。

角田房子『甘粕大尉』は飛ばさず読んだが、最後まで重苦しかった。無政府主義者・大杉栄の生と死を描いた瀬戸内寂聴や鎌田慧の本で、甘粕ら憲兵隊に殺された大杉にはいわば殉教者の趣があるが、殺した側の甘粕は死ぬまでその罪を負っているからか…(続く)
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