mixiユーザー(id:7131895)

2021年05月21日06:02

85 view

辻邦生はフォニーか

辻邦生は、かつて江藤淳が他の作家らも含めて「フォニィ」と切って捨てたことがあった。その際の「なぜ、どんな点が偽物、まがい物なのか」という肝心の論旨の詳細は覚えていない。ただ吉本隆明もそれに近い見解だった気がする。辻は処女作はじめしばしば西欧を題材としたが、彼は20世紀の日本人なのに、その現実をさておいて、そんなものに自身のリアリティがあると考えるのはおかしいんじゃないか、という見方だったか。

僕は辻邦生は最近になって長編「背教者ユリアヌス」を読んだくらいだが、この作品への僕の評価はまだペンディングの面もあるが、それほど高くはない。歴史小説って、大枠で史実を踏まえてさえいれば、後は日々細部の物語を紡いでいけば語り終えられるのではないか。作品の長大さはその価値の評価に重要ではないだろう。

ただ後のカトリック教会から「背教者」と名指された、古代ローマのキリスト教国教化という大きな歴史の流れに背いて、古代の神々への祭祀を蘇らせようとした青年哲学者皇帝は興味深い人物ではある。恐らく辻邦生はキリスト教には入信しなかったから、皇帝ユリアヌスに惹かれ、彼を主人公に長編歴史小説まで書いたのだろう。ともあれ、今後も彼の作品を読む際はフォニーかどうか、気にしないでは読めないだろう。
3 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年05月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     

最近の日記