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2018年09月16日16:11

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「やまとことば」は2層から成る

昨日聞いた講演は刺激的な内容だった。
演題は「万葉集にやまと言葉の起源を探る」。講師の小林昭美氏は元NHKディレクターだが、万葉集の研究などを通じて日本語のルーツを探ることをライフワークにしている。配られたプリントからまとめの部分を引くと──。

「萬葉集の日本語には弥生時代のはじめ以来約千年にわたる、中国文明との接触の結果取り入れられた中国語の語彙が多く含まれていることがわかる。
それらの語彙は朝鮮漢字音の影響をうけたものも多く、8世紀の中国語音と異なるため一般にやまとことばとされてきたが、上古中国語と同源である。これを仮に弥生音(弥生時代から古墳時代を通じて、前3世紀ころから7世紀までの長きにわたって米や鉄の文化とともに日本語の中に入ってきた語彙)と呼ぶことにすると、やまとことばには二つの層があると考えられる。」

──つまり、コメや鉄など奈良時代より前の弥生時代・古墳時代に大陸からもたらされた多様な物品や技術等と一緒にそれらを表す言葉も移入されたが、「介在した朝鮮半島の言葉の影響を受け、中国語起源だったことが見えなくなった」のだと。

従来、日本語での漢字の読みには、「本来の日本語=やまとことば」による「訓読み」と、中国伝来の「音読み(呉音・漢音)」があるとされてきた。だが、講師の小林氏は「やまとことばは『原やまとことば』と『弥生音』の2層で構成されている」と指摘、主張している。これは、古代日本国家の文書官「史(ふひと)」の多くが、漢字だけで朝鮮語を表記していた時代(ハングル誕生以前)の朝鮮半島からの渡来人だったことに関連している。つまり古代日本語の語彙は、古い順に「原やまとことば」「弥生音」「呉音」「漢音」が層を成している。

「弥生音」の例として、音韻転移の法則により中国語音から変化した漢字として、
●ラ行からた行:立(リツ、たつ)、瀧(リュウ、たき)、嶺(リョウ、みね)
●ラ行からな行:浪(ロウ、なみ)、梨(リ、なし)、練(レン、ねる)
●韻尾への母音転化:君(クン、きみ)、殿(デン、との)、絹(ケン、きぬ)、浜(ヒン、はま)、肝(カン、きも)
●調音の位置が同じ:腕(ワン、うで)、肩(ケン、かた)、堅(ケン、かたい)、断(ダン、たつ)、音(オン、おと)
●ら行への転移:辺(ヘン、へり)、塵(ジン、ちり)──などが挙げられている。

質疑応答で小林氏に、こうした呉音・漢音に先立つ「弥生音」の考え方、ないし「一部のやまとことばは実際には中国語に由来する」という説は他の研究者の考え方を取り入れたか、由来するものか質問すると、「自身のオリジナル」だと答えた。小林氏は、漢字だけで書かれた萬葉集の中から「真の、純粋な日本」を発掘しようとした本居宣長から現代の国語学者にまで及ぶ「国学」的伝統を批判し、相対化したわけだが、小林氏は国語学界(日本語学界)の一員と見なされていないから、「門外漢の遠吠え」がメインストリームに取り入れられる見込みは当面なさそうである。

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