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2023年04月25日00:45

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『妾と愛人のフェミニズム』

石島亜由美著『妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦制の裏面史』を読むきっけは、「シリーズ 紙礫」の一冊として『女中』は出たのに、妾(めかけ)ないし愛人については未刊行であるのはなぜか、思いを巡らしたことがきっかけだった(刊行予定は不詳)。カバーに載っているシリーズの既刊は上から、「闇市」「街娼」「人魚」「テロル」「鰻」「路地」「変態」「浅草」…と続き、かなり「文学的・趣味的」志向・嗜好に偏っていて、社会史的・社会学的観点は乏しいように見える。

そこでネット検索すると、3月に出たばかりのこの新刊にヒットした。著者も、版元の青弓社も、「フェミニズム」の人・出版社らしい。著者は1980年生まれ、城西国際大学で博士号取得。専攻は女性学、東洋医学で、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧を生業としている。この著者と版元を知って、「妾・愛人」は単に趣味的、文学的観点からは扱いきれない、「フェミニズム」という思想・世界観が欠かせない、と直感した。ただ、フェミニズムといっても、論者の数だけ立場があることを、著者の「はじめに」を読んで知る。

著者は「妾」と「愛人」を研究するに際して、これらの言葉の歴史的来歴を通観する。主な対象は、小説や評論、新聞や雑誌の記事である。新聞・雑誌記事を調査対象とする際には、コンピューターでのデータベース検索が威力を発揮する。

この本が明らかにした、ないし再発見したことは、本の前半で詳述されているように、「妾」と「愛人」は歴史的起源が異なること。妾は明治以前からあったが、明治になって妻と同じく「二親等の存在として法制化」された。華族を対象にした明治11年の調査によると、妻妾ともいる者より、「妾だけがいる者」の方が多かった! しかし、妾の法制化は10年ほどで廃止され、以後は忘れ去られる。明治以前から天皇家や公家、将軍家、大名家など、家の存続を第一とする人々にとっては、妾は世継ぎを確保するために欠かせない制度で、その考えは妾が法制度から除外された後も続いた。もちろん妾には、夫の性愛の対象としての側面もあるが、正妻は「妾よりも高い地位にあること」を心の拠りどころにしていた(夫のために妾を探す苦労をする主人公を描いた円地文子『女坂』など)。

もう一方の「愛人」は、明治半ばの北村透谷らの西洋キリスト教思想からの輸入による「恋愛論」ブームが地盤になった。大正期の有島武郎らの小説では恋愛の対象として美化されていた「愛人」が、戦後の新聞の三面記事や週刊誌のゴシップ記事の格好の餌食になっていった。そして、風俗小説、映画、ドラマへと描かれる媒体が広がり、テレビのワイドショーにも登場してきた。――ただこれらは、記者ら体制派が描いた「愛人」たちのイメージ・表層であり、著者はより深いところまで考察している(フェミニズムとしての愛人)。
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