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2023年04月16日16:55

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女中と、妾(愛人)と(その2)

『女中』収載の10作品のうち、「女中ッ子』のほかに印象が強く、興味深かったのが、最後に並ぶ水上勉「ボコイの浜なす」と小島政二郎「焼鳥屋」の2作だった。言い換えれば、志賀直哉や太宰治、三島らの作品はそれほど印象的でなかったが、10作の配列はこのことを考慮したのかもしれない。

このうち水上勉の作品は、女中の女性が殺人(法的には傷害致死)事件の被告となり、国選弁護人となった老弁護士が事件の深層に迫ろうとするプロセスを描く、半ばミステリー仕立て。現実に起きた事件(一つまたは複数)にモデルがあるのだろうと推測する。女中だった被告が勤め先の家の息子の大学生に暴力で犯され、直後に台所から包丁を持ってきて仰向けになっている息子を刺し殺した。
――このように刑事事件にまで発展しなくとも、また性犯罪には成っていなくとも、明るみに出なかっただけで、女性たちが泣き寝入りしたケースは数え切れずあったろう。なにしろ、他人であるのに同じ家に住み込みで一日中暮らし、その家は鍵も掛からない日本家屋だったから。また、女中から主人や息子の「妾(めかけ)」になった女性たちも少なくなかったと思われる。

これに対し、小島政二郎「焼鳥屋」は、実際に作者の家に勤めた女中たちの中で性格も才覚も最も優れ、かつ幸福になった女性をモデルにしたと思われるだけでなく、10作品中でも最も望ましい境遇が描かれている。一般に住み込みの若い女中たちが日ごろ接するのは、さまざまな商店の「御用聞き」や郵便配達夫などだったが、主人公キミが気に入ったのは、人は良さそうだが、「豚の餌さ集め」という世間的には最下層に見られる仕事の青年だった。その点を主人=作者夫婦も心配していたが、身辺調査をすると、申し分ない。めでたく結婚した二人が始めた商売が焼鳥屋だった。作者らの支援もあり店は繁盛し、さらには洋食屋に転じてもうまくいき、子宝にも恵まれる…。
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