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2023年12月17日19:52

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重力、サピエンス、遠賀川、民俗学など

この日記は実に2カ月ぶりだが、この間に読了した本を挙げると――

1 山本義隆『重力と力学的世界』上・下(ちくま学芸文庫)
2 同上『重力と磁力の発見』1・2・3(みすず書房)
3 Y・N・ハラリ、織田裕之訳『サピエンス全史』上・下(ともに河出書房新社、ただし上はハードカバー、下は河出文庫)
4 『高橋是清自伝』上・下(中公文庫)
5 堀江貴文・井川意高『東大から刑務所へ』(幻冬舎新書)
6 『流域紀行』(朝日新聞社編)
7 マルクス、エンゲルス『共産党宣言』(岩波文庫)
8 竹内淳子『藍 II』(法政大学出版局)
9 同上『紅花』(同上)
10 同上『草木布 I』(同上)

どの一冊も読みごたえがあり、それぞれに面白いのだが、印象に残る一冊だけ挙げると6の『流域紀行』。昭和47(1972)年に朝日新聞学芸欄で連載された10人の書き手による流域紀行をまとめて、翌1973年3月に刊行された。まず注目したのはふるさと徳島の吉野川について、同郷の有名人でまだ瀬戸内晴美だった著者が書いた「吉野川」と、真壁仁氏による「最上川」。それぞれ、流域の特産だった藍と紅にページが割かれる。ともに、稲作・米作りが農業、さらに経済・社会の土台だった時代に、大河の氾濫による稲作への不適合さから、江戸時代から戦前にかけて藍や紅花を作り、「商品作物」とすることで、大商人や文化の繁栄があった。封建時代の日本に自生した資本主義といえるだろう。

ただ、これらの章を含め、僕にとって10章の中で一番印象的なのは、福岡県の筑豊を南から北に流れる遠賀川(おんががわ)。それは「この流域の筑豊炭田で採掘される石炭が、明治から昭和半ばにかけて、日本の工業化や都市化を担う最大のエネルギー源だった」という歴史的事実による。遠賀川はその石炭の、河口にある若松港までの物流の太宗を担う大動脈だった。6トンほどの石炭を載せる底の平たい小舟が、最盛期の大正時代には7000艘(ウィキペディアでは8000艘)も川面に浮かんでいた。この船には動力がないらしく、上流に遡るとき船頭は船から降りて岸辺から船を引っ張って上る、という重労働だった。竿一本で船を操る船頭は、農民や炭鉱夫らの上にそびえたつ存在だった。体力にも胆力にも自信のある船頭らは気性も激しく、喧嘩沙汰が絶えなかった。「朝の路上には、前の晩の喧嘩で殺された男の死体をよく見かけた」と高倉健が回想していたが、同じことがこの本で書かれ、高倉健の回顧談が誇張でなかったと納得した。事実、人口当たりの殺人件数は日本で有数だった。

重力の発見や、ホモサピエンスの歴史や、衣類などを巡る民俗学については、別の機会に。
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