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2023年09月03日23:01

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阿波、長崎、東京と…

最近読了した本(読みかけや、めくっただけの写真集などは除く):

0 童門冬二『小説 蜂須賀重喜 阿波藩財政改革』(講談社文庫)
1 さだまさし『精霊流し』(幻冬舎文庫、2003年初版発行、元は2001年9月に同社から単行本)
2 源川真希(みながわまさき)『東京史――七つのテーマで巨大都市を読み解く』(ちくま新書、2023年5月10日第一刷発行)
3 青木冨貴子『占領史追跡 ニューズウィーク東京支局長パケナム記者の諜報日記』(新潮文庫、2013年8月1日発行、元は2011年5月刊行の同社単行本)

0の『小説 蜂須賀重喜』は前回日記に名前を挙げたが、感想等は書かず。ふるさと徳島の特産だった「藍」に絡むので読んだ600ページの力作だが、Wikiっても作者の著作リストにも、実在した主人公・蜂須賀重喜(はちすかしげよし)の項の参考文献にも挙がっていなかったと思う。大衆文学・時代小説の評論家にも、阿波・徳島郷土史の研究者にも、あまり注目や評価をされてなさそうだ。題材は、実際に江戸時代の世を騒がせたいくつかのお家騒動の一つ、阿波御家騒動。この作品を論じた参考文献などを知らないが、作者があとがきでいう「史実8割、想像2割」のうち、徳川幕府の田沼意次が巡らす策謀の部分が想像=創作の中心だろう、と想像する。

1のさだまさし『精霊流し』は、多才で有名な歌手さだまさしの500ページ弱の自伝的長編小説。僕自身彼の歌のファン(ただし半世紀前、デビュー間もない頃の「精霊流し」と「無縁坂」の2曲限定の。今でもネットで時々聞いている)。章ごとに、幼い頃から青年時代にかけて、彼の周囲にいて亡くなった親しい人たちを懐かしみ、追悼する。生と死が隣り合わせにある、人生そのものを描いている、と言えるかもしれない。

2は真面目な研究書だが、農村に比べて、都市の歴史は研究が遅れていたらしく、チャレンジングな試みだろう。

3の著者はノンフィクションライターだが、昭和史や戦後史の研究者、専門家も知らなかった事実が書かれているのではないか? この本を書かせたのは、コンプトン・パケナムCompton Packenham(1893〜1957年)というイギリス人で、戦後、米週刊誌Newsweekの東京支局長を務めた人物の日記を入手したこと。ただ個人的な日記というより、実際にはニューヨーク本社の同誌外信部長への報告日誌という面が強い。この日記が重要なのは、パケナム自身とその思想や行動、さらに上司を通じた米政権(最終的には大統領のトルーマンやアイゼンハワーにまで及ぶ)への影響が読み取れるから。例えば、パケナムは連合国軍最高司令官マッカーサー統治下の日本で、恐らく初めて正面から彼を批判したが、これは当然にも大統領トルーマンに伝わり、最終的にはマッカーサーの解任にもつながった可能性がある。

要するに、パケナムの表の顔はジャーナリストだが、米政府の諜報部員でもあった。そしてその諜報活動は、天皇の側近や与党の有力政治家など日本の中枢部にまで届き、次期首相をいちはやく占うほどだった。また、日記が週刊誌記者・支局長から上司への報告なので、この本ではほとんど触れられていないが、日本政府や国民への心理戦(謀略・宣伝工作)も任務だったことを、解説で佐藤優が指摘している。

そして、著者の関心は、このパケナムという人物の個人史、個人としての正体にも自ずと向かい、その実像に迫っている。




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