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2016年03月07日00:41

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関ヶ原史料「京極の離脱」家康出陣一〇〇号

○まずは、この手紙から。九月三日に家康が書いたもので、京極高知宛て。

●家康の京極高知宛て三日「御手紙を拝見。このたび濃州方面で、皆で話し合われて、岐阜城を即時に乗り崩されたこと、いさぎよいことです。特に、大津へ手紙を送られたそうで、念入りになさったことは喜ばしい。私も出馬致しましたので、万事、会って話せるときを期待しています」

○京極高知は、秀忠の義兄である京極高次の実弟です。妻の実家の領地を相続して、長野県の伊那地方を領有しているため、「伊那侍従」と書かれる手紙もありますし、「京極修理」とも書かれます。この手紙では伊那侍従です。どちらの表記が正しいのか、はっきりしないのですが、この手紙は偽書ですね。『徳川家康文書の研究』の掲載史料ですが、なにせ「岐阜城を即時に乗り崩した」ですからね。次は家康が、京極高次に宛てた九月七日付。

●手紙一〇〇号の一番「切なる御手紙、御好意のこと、言葉では言い尽くせないほどです。去る三日に大津へ引き返されて、手を切る手段がありますことを、修理殿と井伊兵部が伝えてきましたので、一刻でも出馬を急がせていただきます。中納言は中仙道に出ています。私は今日七日、遠州の中泉に着陣致しました。詳細は修理殿がお伝えになるでしょうから、細かくは書きません」

○前掲の手紙を信じれば、京極高次が西軍から離脱したのは「高知の連絡が届いたから」となるわけですね。しかし偽書でしかないならば、高次がいつ、なぜ、西軍離脱を判断したのかは、とりあえず不明なのです。ともあれ、高次は陣地を引き払って、三日には大津城へ引き返したことになります。では、関連の手紙をもう一つ見てみましょう。家康が伊達政宗宛てに書いたもので、同じ九月七日付。

●手紙一〇〇号の二番「強く申し伝えます。大津宰相は、日ごろのよしみがあることから、こちらに同調なさいました。四日に手合せです。京極殿の手紙を、お見せするために送ります。そちらは油断のない手段が肝要です」「追伸。この手紙を最上にもお届けください」

○大津宰相京極高次の西軍離脱を、伊達政宗に報せています。そして「最上にも届けて」と書いていますが、同じ九月七日付で、最上義光宛ての手紙もあるのです。

●手紙一〇一号「強く伝えます」「備前中納言、島津兵庫、石田治部少を、大垣へ追い、こもらせ、通路を遮断し、陣取っていること」「それについて、父子とも出馬致しました。そちら方面は政宗と相談し、油断のないご手段、ご思慮が大事です」「大津宰相は、このあいだまで越前に出陣していましたが、日ごろの良好な関係により、大津へ帰城し、今月三日に手合せとなりました」

○手紙一〇〇号の二番も、手紙一〇一号も、文中に「手合せ」とあります。普通は合戦衝突があったことを意味する言葉です。大津城へ戻ってしまった京極高次と、西軍はすでに戦闘を開始したことになりますが、一〇〇号の二番では「四日に手合せ」で、一〇一号は「三日に手合せ」で、日にちが違っているのです。さらにもう一通、『徳川家康文書の研究』には京極高知に宛てた家康の手紙がありまして、これは九月九日付です。

●家康の京極高知宛て九日「大津のことを伝えてこられましたが、早々に御手合せは喜ばしいです。すぐにもそちらへ着陣致しまして、敵を早速、討ち果たしますので、大津へ手合せをするでしょう。少しも油断はありません」

○高知宛て三日のほうは「ありもしないはずの岐阜城乗り崩し」を書くので、偽書として捨てます。すると、西軍を離脱した高次が「大津へ帰城した」ことを高知と井伊に報せて、それを家康が「七日に知った」ことで、返事を書いたのが一〇〇号の一番となります。さらに高次は「西軍と手合せをした」ことを続けて報せてきて、それを家康が「九日に知った」ことで書いたのが、高知宛て九日となります。つまり高次からの連絡は「帰城の報告」と「手合せの報告」と、時間差で二通あったことになるわけです。よって高知宛て九日の手紙が本物なら、「九日に知った手合せを、七日に書いている」伊達宛て一〇〇号の二番、最上宛て一〇一号、どちらも偽書でしかないのです。では、高知宛て九日のほうが偽書だとすれば、どうでしょうか。「三日に帰城し、翌日に手合せがあった」一〇〇号の二番、「三日に帰城し、その日に手合せがあった」一〇一号、そんなにも早く西軍が、京極の離脱に対応して、大津城への攻撃を始めたのかどうかですね。その点で言えば、高知宛て九日にしても、対応が「とても早い」のは同じですし、何より「戦闘の相手が誰なのか」を、まったく書いていないことが疑問です。「高次が大津へ帰った」だけを書く一〇〇号の一番のみが、実は本物なのかもしれません。
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