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2015年12月18日10:58

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book『昭和天皇の戦後日本』(豊下楢彦)

豊下楢彦著『昭和天皇の戦後日本/<憲法・安保体制>にいたる道』(岩波書店)を読んだ。日本の敗戦によって天皇制の存続が危ぶまれる危機に直面して、昭和天皇はどのように動き、天皇制の存続を図ろうとしたのか明らかにした本だった。冷戦の進行のなかでマッカーサーとの政治的パイプを作り、またその後(マッカーサー罷免後)は直接アメリカ政府の中枢とつながり、憲法改正、東京裁判、そして安保条約とい日本の戦後体制の形成のプロセスに天皇が極めて政治的に関与していった事実を「昭和天皇実録」を駆使して論証する。著者のその論証過程は読む者をとらえて話さない。「ここにおいて天皇は、マッカーサーとの間で緊張関係を孕みつつも、徹底した『占領協力』によって危機を乗りこえようとした。次いで直面したのは、内外の共産主義による天皇制打倒の危機であった。これは、戦中の軍部の反乱とは全く異質の脅威であった。これに対して天皇は、外国軍によって天皇制を防衛するという、歴史に例を見ない選択に踏み切った。」(「あとがき」)沖縄をアメリカに差し出したのも天皇であった。天皇の「政治性」をこの本で詳細に知ることにより、戦争責任を免れた天皇に対して、思春期の頃に「戦死した父を殺したのは天皇だ。」と感じたのは間違いない事実だと思った。ただ、昭和天皇と比して平成天皇が現行憲法を尊重し、象徴天皇制を堅持していることを著者は高く評価するが、手放しの賞嘆でいいのだろうかと思った。これも私の思春期の記憶だが、皇太子の成婚パレードで少年が投石したことをテレビの実況中継で見た時、快哉と心で叫んだ経験が浮かぶ。皇太子が生まれながらに恵まれた存在であるということへの疑問の心が叫ばせたのではなかったかと思う。この優れた本でも「天皇制の呪縛」があるのではないだろうか。

<目次>
序 『昭和天皇実録』の衝撃
第1部 昭和天皇の〈第一の危機〉――天皇制の廃止と戦犯訴追
第1章 「憲法改正」問題
第2章 「東京裁判」問題
第3章 「全責任発言」の位置づけ
第2部 昭和天皇の〈第二の危機〉――共産主義の脅威
第1章 転換点としての一九四七年
第2章 昭和天皇の「二つのメッセージ」
第3章 「安保国体」の成立
第4章 立憲主義と昭和天皇
第3部 〈憲法・安保体制〉のゆくえ――戦後日本の岐路に立って
第1章 昭和天皇と〈憲法・安保体制〉
第2章 岐路に立つ戦後日本
第3章 明仁天皇の立ち位置
あとがき
主要参考文献
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