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2015年09月17日17:46

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関ヶ原史料「島津は留守番?」上杉討伐一九号

○福島県の会津地方を領有していた上杉景勝を、「討伐する」と言って徳川家康が出陣。ここから「関ヶ原決戦に至る東西戦争」が始まります。『日本戦史関原役』の収録史料では、「上杉討伐」に触れた最初が、薩摩の島津惟新義弘の手紙です。大坂から、兄の龍伯義久に宛てたもの。四月二十七日付。

●手紙一九号「追って書きます。今朝、内府様のところへ行き、庄内のことで御礼を申しあげました。特別に御機嫌もよく、入来院、又六、善哉坊も呼ばれて、御前で御食事をいただきました。その際に、長尾殿が上洛を延期している件を、聞いておられました。伊奈図書頭に、御奉行たちからも使者を添えて、先月十日に伏見を立って、会津へ向かったところ、六月上旬のころには上洛するという御返事を言い放ったので、その返事によって、内府様は御出馬なさると御定めになりました。ついては、伏見の城を留守番せよと、直接に私に命じられたのです。その場で承諾しましたら、とても御満足だったと聞きました。具体的なことは御部屋の御使いに申しあげます、と申して、御前を下がりました。それから、こちらの知人たちに尋ねてみたところ、そういう仰せなら、どのみち公儀のことだから、御命令次第にするのがよろしかろうと言うのです。伏見の御留守番となる以上は、人数をしっかり持っていなければ、御家のためにもならず、そのうえ世間の評判もどうかと思いますので、人数のこと、必ず到着するようにご命じください。伏見の御城を預りますと、諸口も多くなるので、人数も過分に入れるべきです。よくよくご相談のうえ、兵糧なども調えて、すみやかにご命じください。庄内の出陣後で、諸将も迷惑に思うでしょうが、だとしても、こちらでは百石に三人役で命じられて、奥州へ出張するとのことなのです。当家の場合は御留守番ですから百石に一人役で命じれば、調うかと思います。当然、ご油断では、私らは言うに及ばず、御家の落ち度となるでしょう。ご念入りに、又八郎とよく話し合うことが肝要だと思います。伏見の御城は、御本丸に御満様が御在番になられて、そのほかの場所は、われわれに頼むとの話です。御満様の御役人が一人、人数も少々が置かれるのみで、そのほか内府様の御手勢は、すべて引き連れて、東国へ行くおつもりだと聞いています。なんにしても善哉坊を帰国させます。詳細を申し述べるでしょう」

○一八号までの手紙は、徳川家康をはじめ有力大名たちが、互いに交わしている起請文がほとんどです。内容も定型文が並ぶばかりで、真偽の判断をしようもありません。それから慶長五年の四月、この手紙が登場するのです。文中の「庄内のこと」とは、前年に島津家で起こった伊集院の乱。隠居の身である惟新入道義弘は、大坂へ出て、家康に挨拶し、内乱を起こした島津家に対して寛大な処置をしてくれたことについて「御礼申しあげた」ということのようです。ちょうどそのころ大坂では、「長尾殿」こと上杉景勝が「上洛延期」で領国から出てこないことが、問題になっていたわけですね。義弘は、食事をご一緒しながら、使者が報告するのを聞いていたというのです。上杉は「六月上旬には行くよ」と言い放ったそうです。原文では「申はなたれ候」となっています。決して「いい言葉遣い」ではありませんね。結果的には西軍に付いて、徳川と戦うことになる島津義弘が、上杉のことで「好意的ではない」表現をしているのは、注目に値します。

○この手紙で最も興味深いのは、「軍役」が記されていることです。戦争をする際に「どれほどの人数を動員するか」を決めるもの。なお、定説で語られている西軍の兵力数は、この手紙の「百石に三人役」を採用して、各地の大名の領地石高から計算した数字なのです。また、「島津家は伏見城の留守番を頼まれていたのに、伏見城番に拒絶され、立腹し、西軍に付いた」という話がありますが、それの根拠となっている手紙でもあります。でもこの手紙では「御満様が御本丸に御在番」という話なのです。家康の息子、武田信吉のことですが、伏見城に残るどころか、戦陣にも出ていません。ここには「史実と違うこと」が書かれているわけで、この手紙が偽書である可能性。そうならば、「島津の留守番」の話は削除されるべきだし、軍役についても信じてはいけないので、西軍の人数も考え直しとなるでしょう。逆に本物であれば、「その後に状況が変更されている」以上は、「島津の留守番の約束」も「軍役」も、あくまで「この時点での予定にすぎない話」となるわけです。だとすれば、その後に「軍役も変更になった」かもしれませんよね。「島津の留守番の約束」は、「結果的に留守番をしなかった」のですから、「予定変更で留守番は取り消し」と考えるべきではないでしょうか。すなわち、この手紙が偽書であれ本物であれ、「留守番の約束なのに、拒絶されて、西軍に付いた」という話は、どのみち捨てるべきなのですよ、解釈の中から。
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