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2015年11月13日23:39

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関ヶ原史料「山内一豊の功」東西分裂四二号

○大坂では七月二十三日に伏見城への出陣命令が出たようで、事態が進行しています。しかし関東では、二十七日の段階でも「石田と大谷の謀反が確定したので成敗する」という認識を示しているだけでした。ところが、ついに重要な情報がもたらされたようです。手紙を書いたのは家康の重臣、大久保忠隣と本多正信の二人です。宛名は山内一豊で、当時は静岡の掛川城主。七月二十七日付。

●手紙四二号「大坂のようすを、早くも伝えてこられましたね。すぐに申しあげましたところ、御念入りなことに一段と喜んでおられました。明日、ご面倒でもお越しになってほしいと申されております。詳しくは勝茂九郎殿がお伝えになるでしょう」「なお、御念入りなことは一段とお喜びを申します」

○山内一豊と言えば「内助の功」が有名です。大坂屋敷にいた妻の千代が、大坂の事情を手紙に書いて夫に送り、栃木で受け取った一豊は、小山評定の席上で、手紙の封も切らずに家康に差し出した、という話ですね。手紙の内容も知らないままで家康に渡した行為には、さすがの家康も感激して、関ヶ原決戦では大した手柄もなかったのに、土佐一国の褒美を与えた、となっています。さらに裏話も知られていて、実は千代が、正式に封をした手紙とは別に、もう一通の手紙を書いていて、夫にも内容が伝わるようにしておいたうえ、「正式な封書のほうは、封を切らないままで渡すのですよ」と指示もしてあった、というわけです。なんだかできすぎたような逸話ですが、どうやら「事実に近い」話ではあったみたいです。ただし「小山評定の席で渡した」わけではなかった模様。二十六日に引き返しはじめた豊臣軍団は、翌日の時点で埼玉県のあたりまでは、戻ってきているでしょうか。そこに届いた「手紙」を、即座に徳川へ転送したようです。「妻の書いた手紙」かどうかはわかりませんが、文中に「大坂のようすを伝えてきた」とありますから、「大坂屋敷からの報告」なのは間違いありません。さらに手紙では、繰り返して「御念入りなことを喜ぶ」とあります。原文では「被入御念一段祝着」です。「念入り」という言葉は、「よく考えたうえで、ていねいなことをしている」の意味です。「封も切らずに渡した可能性」を思いたくなるのですが、残念ながら「ご面倒でもおいでください」とあって、一豊と直接に話をしたがっているわけですから、「中身を見てないよ」パフォーマンスはありえませんね。

○次の手紙は、七月二十八日付で、家康が芦名盛重に宛てたもの。さらにもう一つ、七月二十九日付で、家康が黒田長政に宛てたものと、比較してみましょう。

●手紙四三号「お手紙を拝見、大変に喜ばしい。そちらを御出陣だそうで、納得です。こちらも小山に在陣しています。それから、上方のことは、確かに事実であると言ってきています。なお、本多佐渡守が伝えるでしょう」

●手紙四五号「先日に引き返したあとで、大坂奉行衆が離反したらしいことを言ってきたので、相談したいと思ったのだが、すでに進んでいるからやめておく。詳しい話は羽三左に伝えておくので、よく相談しておいてくれ。なお、山本新五左衛門と犬塚平右衛門が伝えるだろう」

○まずは黒田長政宛ての四五号ですが、「大坂奉行衆が離反したらしい」という話が出てきました。原文では「大坂奉行衆別心之由申来候」です。今までは、あくまで「石田と大谷が謀反」だったのに、ついに「大坂離反」の情報です。長政が「大坂へ向けて引き返した」あとになって、届いてきた情報だそうです。なお、このとき豊臣軍団は、福島正則の居城「清洲城」を目指して東海道を進んでいたようなので、二十九日であれば、もう鎌倉のあたりを過ぎていたかもしれません。さすがに呼び戻すのもかわいそうだと思ったのか、家康は、代わって羽柴三左衛門池田輝政に情報を託し、「よく話し合ってくれ」と書いています。この手紙が本物ならば、「山内が伝えた情報」こそが、やはり重要な価値を持っていたのでしょう。おそらく十七日以降の大坂では、城下が戒厳令下におかれていて、通行も遮断されているような状況で、なのに山内屋敷は「決死の覚悟の使者」を送り出し、警備をくぐり抜けてきて、最新情報を届けてきたことになりそうです。それなら大手柄ですよね?

○これに比較すると、四三号はチャチですね。「ただ戦う」ってだけの内容で、しかも「大坂のことは事実だ」と書くのみです。誰が逆心で、誰が別心だとか、変化する情報の伝達もないんですよ。最初から「誰が西軍メンバーなのかを知っている」という理解で書かれている文章だとしか思えません。四三号のような疑問のある手紙をよけていくと、七月下旬ごろから月末まで、家康が次第に情勢を把握していく過程が見えてきて、とても興味深いのですけどね。
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