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2015年09月23日01:58

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関ヶ原史料「豊臣家は不満?」上杉討伐二一号

○この手紙史料は宛名が切れていますが、徳川家の誰かに送ったものではあるでしょう。書いたのは、長束、増田、中村、生駒、堀尾の五人連名。いわゆる五奉行の長束正家、増田長盛の二人に、豊臣の重臣たちが加わって、五月七日付です。

●手紙二一号「今は秀頼様を御取立てになっておられるのですから、上方におられて、天下を静謐に命じられて、遠国に動きがあったなら、われらを派遣し、われらに役目を命じるものだと思います」「われらが意見するのも憚りが多いのですが、必要があるときは、どうでも御前に出て、可能な限りの役目をなすように仰せられていたので、こうしました。このたび、直江の所業は行き届かず、御腹立ちはごもっともだと思います。しかし、おおよそ今まで公儀の務めもせず、まったく田舎者ですから、不調法で、こうなのです。今年中は御遠慮を加えられ、それでも変わらぬようなら、来春になって御出馬がよいかと思います」「太閤様が御不慮になって以後、いろいろ下々の動きがありましたが、どれも御理解があって御遠慮を加えられて、めでたく済んでいたのに、今回は御下向になるのであれば、たとえすぐにおさまるとしても、日本に傷がついたように、下々では思うことでしょう」「だいいち秀頼様は御若年なのです。しかしながら、ここにおいでくださっているから、誰もが重々しく崇めるのです。ただいま御下向になったなら、秀頼様を御見放しになったように、下々は思うことでしょう。ぜひとも今年の内は御遠慮なされますように、強く申しあげたく思います」「先立つものは御兵糧です。中仙道では、前々から去年に至る不作で、特にここ一年は飢饉があったようです。野陣の兵糧はどうなさいますか。また、雪の前に動いても、雪に閉じ込められるかもしれません。などから、来春の御出馬がよろしいと思います」

○かなり有名な手紙です。関ヶ原の合戦について、まじめに書いているような本であれば、この手紙に触れないことはないと思います。しかし、しっかりと全文を読んでみますと、言われているようなニュアンスとは違うようです。「家康が上杉討伐を言い出したので、豊臣の重臣たちが、やめさせようとした手紙」とされていますが、まず第一文で「なにも家康様が行かずとも、私らを行かせて、私らがやれば済むことだ」と書いているのです。原文では「各被差遣被仰付候」です。「各」は連名の私たち。「被差遣」は家康の命令で行かせる。「被仰付」は仕事を命じられる。よって「わざわざ家康様が行くようなことですか」と言っているわけですね。すると第三文で、「今までは、めでたく済んでいたのに、今回は御下向になるのであれば」とあって、「今回の上杉問題」は「今までにあったことと同じレベルのこと」という理解が示されているのです。そして、「どうしても行くなら、来年の春になってから。せめて今年中はやめてください」と言っています。ここには、確かに「御出馬」の言葉が使われていますが、戦争をするとかしないとか、重い切迫感や緊張感が感じられないのです。それもそのはずで、長束や増田が恐れているのは、「家康様が秀頼様を見放して、江戸へ帰ってしまったと、下々が思うかもしれない」ことなのです。「しもじも」という言葉を大名が使うときは、庶民や大衆ではなく「われわれ」の意味。つまり、各地の武将クラスを指します。「秀頼様はまだ子供なんです。家康様がいらっしゃるから、みんなも秀頼様を重い存在として受けとめているにすぎないのです。なのに、家康様がいなくなってしまったら」というわけ。すなわち、天下人秀吉の息子だからって、絶対存在として君臨しているわけではないってことですが、それも当然のこと、だって当時は封建君主のシステムで、専制君主ではないのですよ?

○長束たちは第三文で、「太閤様の死後に、いろいろ下々の動きがあった」と書いていますが、原文では「如何程も下々出入御座候」です。「出入り」という言葉は、人の動き、なかでも「不穏な動き」を指します。文中に詳細は書かれていませんし、これらに関する一級史料もないのですが、知られている範囲では、前年に岡山の宇喜多家で内乱があって、薩摩の島津家でも内乱があったこと。それから、黒田や福島など七将が、石田三成の殺害を計画するという騒ぎを起こし、結果的に三成は居城の佐和山で謹慎させられたこと。そして上杉が国から出てこないこと。秀吉が没してから二年足らずのあいだに、なんやかんやと起こってはいるわけですね。長い戦乱がようやくおさまって、新しい秩序を作ったはずが、統治者の秀吉がいなくなり、後継者の秀頼では幼少で統治できず、混乱しているかのようです。長束たちの懸念も杞憂とは言えない感じです。しかも実際に、このあとに東西戦争が勃発するのですからね。結果的には長束たちの不安が的中してしまった、と理解するべきでしょう。
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