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2015年04月25日16:03

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book『帝国陸軍に於ける学習・序』(富士正晴)

士正晴著『帝国陸軍に於ける学習・序』(六興出版)を読んだ。私の散歩道に「富士正晴記念館」(茨木市立中央図書館に併設)がある。少し前より富士正晴の戦争文学が気になりだした。記念館に展示されている書籍のなかに『帝国陸軍に於ける学習・序』があることを知り、図書館で借りて読んだ。(図書館の「郷土」コーナーにほぼ全著作が揃っている。)読んで見て、特異で独特の「戦争文学」だった。この本は、冒頭に「1946年の詩」が置かれ、「帝国陸軍に於ける学習・序」を含む8編の短編が収められている。著者は1944年に軍隊では老兵のあたる31歳で陸軍に召集され(敗色強い時期の総ざらいの召集である)、南京・桂林・広州等に動員される。この本は戦後の戦争文学の名作のひとつである。「おぼえがき」で富士正晴は、「私は戦場を書く場合、ほとんど自分の体験のみを書き、いわゆる戦争小説といった色つけやふくらましについては、拒絶の気分が強かったように思う。それだけわたしは『作家』でないのかも知れない。」と書き、「書くだけのことは書いてしまったから、その後、戦争のことも歌おうとも、書こうとも思わない。」と結ぶ。本書の大本を為す富士政晴の「戦争への構え」は、「戦時強姦はしない。悲しいにつけ、苦しいにつけ、よく食う。嬉しいにつけ(こんなことは万万あるまい)よく食う。」(同書「童貞」のなかの言葉)だ。この構えが、教育召集から召集への過程を描いた「帝国陸軍に於ける学習・序」、中国人苦力をひとりの人間として形象化した「崔長英」等の作品の全編に貫かれている。富士正晴の戦争文学はまとまった本としてはこの本だけのようである。それ意外に短編がいくつかの本に収められているようなので、読んで見ようと思っている。
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