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日記一覧

 「あたしは最後の一枚が落ちるのを見たいの。もう待ち草臥れちゃった。考えるのも草臥れちゃった。何もかもみんな忘れて、あの草臥れた葉っぱみたいに、ひらひらと舞い落ちて行きたいの」 オー·ヘンリーの『最後の一葉』など「命」にまつわる三話が収

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 詩人は、自分の季節を持つ。この間読んだ八木重吉が「秋」なら、きっと高橋順子は「夏」だろう。 殊更に夏の詩が多いというわけではないけれど、彼女の夏の詩が印象に残る。それも、ぎらつくような、力漲る夏ではなく、終わりゆく夏の寂寥や、都会の中でそ

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 自身の少年時代、青年時代の経験を基に、子供たちに向けて書かれた本書は、大江健三郎版の『君たちはどう生きるか』とも言えるだろう。 平易な言葉遣いであるが、「意地悪さ」への立ち向かい方、ウソをつかない力をつけるといった文章には、時に大人もハッ

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 200年にわたる西洋近現代絵画の豊穣な歴史。一般的な美術書のように、「主義」や「巨匠」の変遷を追うのではなく、画家たちが新しく「何を」描こうとしたのか(主題とテーマ)、どのような手法で「いかに」描こうとしたのか(造形と技法)、新しい絵画が誕生す

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 四方を海に囲まれた日本は、貿易量の99パーセントを船で運んでいる。その縁の下の力持ちとしての全国約千の港湾。本書では、港の歴史や最先端の技術等がコンパクトにまとまっている。 太平洋の荒波にさらされるなか短期間で堤防を造るには。アサリが暮らす

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 山川草木、鳥獣虫魚ー生きとし生けるものへの愛おしさが伝わってくる随筆集。 大きなものだと、六千年の糸杉の巨木。「そんなものが一つ、まだ見ぬメキシコの森林に存在することを思うだけでも、私の心は波のように踴躍する。」小さいものだと、冬の夕暮れ

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 桃始笑(ももはじめてわらう)、蚕起食桑(かいこおこってくわをくらう)、涼風至(すずかぜいたる)、水泉動(すいせんうごく)。「二十四節気」と比べマイナーな「七十二候」だけれど、雅やかであり、ユーモラスでもある芳醇な言葉は、四季折々の時の魅力を存分に

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 「そのとき、女の一人がふと蒼空を仰いで「ねぇ······また、きっといいこともあるよ。······」と、呟いたのが聞こえた。 自分の心をその一瞬、電流のようなものが流れ過ぎた。 数十年の生活

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 先日初めて訪れた早稲田にある漱石山房記念館は、漱石の書斎が復元されていて、客との会話を楽しむ漱石の姿が目に浮かぶようだった。芭蕉などの庭木が、静かに雨にうたれているのも趣きがあった。 漱石の最後の随筆集となった本書には、多くの人びとが現れ

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「この明るさのなかへ ひとつの素朴な琴をおけば 秋の美しさに耐えかねて 琴はしずかになりいだすだろう」(『素朴な琴』)「秋になると 果物はなにもかも忘れてしまって うっとりと実のってゆくらしい」(『果物』) 八木重吉の詩には、透明な明るさ、静け

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 『男はつらいよ』の映画で、マドンナの松坂慶子が、寅さんの魅力を「温かさ」と言ったのを思い出した。「それも、電気ストーブのような温かさじゃのうてえ、ほら、寒い冬の日、お母さんがかじかんだ手をじっと握ってくれたときのような、体の芯から温まるよ

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 ミステリーを中心とした幅広いジャンルの読書をはじめ、落語や歌舞伎、映画など、著者の様々な対象への興味が垣間見られるエッセイ集。 40歳という少し遅めの作家デビューだった著者の内では、芳醇な美酒のように、こうした多様な経験の蓄積が醸成されてい

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 先日読んだ海外篇に引き続いて読んだ日本篇。著者の書評を読むと、名人の至芸の落語を聴いているような、ゆったりとした穏やかな心持ちになる。 著者の書評の凄さは、その本一冊の内容を的確に伝えるだけでなく、文学史や歴史等の大きな流れの中においてそ

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 1999年に辻邦生が亡くなって、今年で早20年になる。没後20年を記念して、辻が教鞭を執っていた学習院大学が編集した本書は、作家や評論家、編集者達から寄せられた、辻邦生の作品や辻自身にまつわるエッセイからなる。長編小説はともかく、芳醇な魅力を湛え

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 人びとの、繊細でいて、激しさを秘めた心の機微を描いた3編の小説。 ドストエフスキーの『正直な泥棒』は、弱く愚かで、それゆえに愛すべき尊い人間という存在を浮き彫りにする。 芥川龍之介の『秋』、森鷗外が訳したプレヴォーの『田舎』はいずれ

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 「勉強しなくちゃいけないの?」「人にやさしくするって、どうすること?」「ぼくはいつ大人になるの?」「幸せって、なんだろう?」 二十ばかりの素朴で、かつ本質的な問いかけに対し、第一線で活躍する様々な哲学者たちが、子どもに語りかけるように答える

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 ライト兄弟が初飛行を成功した1903年当時、百年余でここまで航空が大きな発展を遂げると誰が想像できただろう。   本書は、第二次世界大戦後、国主導の下で拡大し、二十世紀末に規制緩和、航空自由化へと舵を切った航空の歴史を概観する。 規制緩和によ

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 沛然として降る、晩秋の冷たい雨。下巻では、主人公の所属するイタリア軍が敗走し、主人公は軍を離脱し恋人のキャサリンと共に逃避行を図るが、常に雨が降りしきっている。上巻の、戸惑いを感じるまでの明るさとのコントラストが効いている。 一転して、警

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 映画と本は、表現の手法や効果は大きく異なれど、人生の歓びや切なさ、それらをひっくるめた「美しさ」を描く点で共通する。  瀟洒なタイトルの本書は、著者が80年代後半から90年代前半にかけて書きためた映画評からなる。 中でも、どちらもラストシーン

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 建築の歴史は、「紙に包んで捻ったアメ玉」と著者は形容する。  マンモスを追い回していた頃、家の形は世界共通だった。青銅器時代、四大宗教の時代から、各地域の建築文化の多様性が開花する。しかし、大航海時代にアフリカやアメリカの、産業革命の頃に

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 学者による評論だと、明確な論拠を求め言い淀んでしまうかもしれないが、作家である著者の評論は、自由でおおらかな魅力を持つ。 漱石の作品から、『坊っちゃん』『三四郎』『吾輩は猫である』をとりあげ、それらを日本文学、ひいては世界文学の系譜の中に

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 「讀書亡羊」―羊の放牧中、読書に夢中になるあまり、肝心の羊に逃げられてしまったという『荘子』の故事。一般にネガティブに用いられるけれど、編集者であった著者の、本への愛情を知ると、「読書がいかに人の心をとらえたか」と、プラスの意味へと転化す

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 人びとの心の機微を描く内海隆一郎の短編小説を、谷口ジローが綿密な描線で漫画に仕上げている。 「母親の手が背中を撫でてくれていた。ノエミさんは、胸の奥から寄せてくる温かい波に心をゆだねながら、彼の微笑みを感じていた。」若くして日本人の夫に先

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 第一次世界大戦の最中、アメリカ人のフレデリックは志願兵として、イタリア軍にいた。ふんだんとあるお酒、食堂での楽しげな会話、男女の逢い引きなど、日本の戦争文学の「重さ」とのギャップにはじめは少し戸惑ったが、常に死と隣り合わせにある戦争の無情

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 「陸奥湾より吹きつくる寒風、容赦なく小屋を吹きぬけ、凍れる月の光さしこみ、あるときはサラサラと音たてて霙舞いこみて、寒気肌をさし、夜を徹して狐の遠吠えを聞く。」 会津藩士の家系の柴五郎が10歳の時に戊辰戦争が起こり、鶴ヶ城は落城、祖母や母、

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 気品ある詩情に満ち、かつ思索的で、著者の山への愛情が感じられる一冊。  深田久弥の名著『日本百名山』が、具体の山を取り上げ、山が詠まれた和歌や歴史などを織り交ぜるのに対し、本書で現れる山々の多くは、具体の名前は示されない。 それによって、

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 18世紀から19世紀にかけてのロンドンで、三十年以上の会社勤めの傍ら書きためられた宝石のようなエッセイの数々。チャールズ·ラムは、機知、諧謔、ユーモア、皮肉を混じえた多彩な筆で、日々の生活の中のささやかな幸福や人生の哀歓を軽やかに描き出す

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 著者の見田宗介氏は、社会学者であるとともに、壮大な視点を持つ思想家だと思う。  世界人口の増加率が1970年代から減速に転じたように、変化の急速な「近代」という爆発期を過ぎ、変化の小さい安定平衡期の時代に入っている。 本書の副題にもなっている

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 市井の職人や隠密など、この短編集には様々な人物が現れるが、人間の心に潜む弱さや悪を切り出したり、一時の惑いから報いを受けるような、人間の業を感じさせる哀切な話が多い印象を受けた。  その中で、映画にもなった「山桜」は、北国の厳しい冬の後に

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 NHK「100分de名著」での著者の『フランケンシュタイン』の解説が鋭くかつ面白く、ファンになってしまった。 本書も、一般的なミステリーの解説本とは異なり、「人間を描く」ということに焦点を当てていて斬新だ。謎解きやトリックだけでなく、人間性に関す

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