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2019年06月12日23:33

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本棚161『子どもの難問ー哲学者の先生、教えてください!』野矢茂樹(中央公論新社)

 「勉強しなくちゃいけないの?」「人にやさしくするって、どうすること?」「ぼくはいつ大人になるの?」「幸せって、なんだろう?」

 二十ばかりの素朴で、かつ本質的な問いかけに対し、第一線で活躍する様々な哲学者たちが、子どもに語りかけるように答える。言葉遣いは易しいけれど、真摯で誠実な回答の水準は高く、どれも「核心を素手でつかんで取り出す」ものになっている。

 この本を読んでいて、『男はつらいよ』の映画を思い出した。甥っ子の満男が勉強する意味や人生の意味を、偏屈な大学教授が男女の愛の問題を、寅さんに尋ねる。 例えば、「人間は何のために生きてんのかな。」 と聞く満男に、「難しいこと聞くな、お前は。」と言いつつ、寅さんは答える。「何と言うかな、ああ生まれてきてよかった···そう思うことが何べんかあるだろう。そのために生きてんじゃねえか。」

 このような根本的な問いには、いくら借り物の言葉や概念で答えても、子どもの純粋な眼差しは見抜いてしまうだろう。自身の経験をもとに、自身の頭で考え、自身の内側から内発的に出てきた答えが大切なのだと思う。こうした問いについて、自分も子供に対して、はぐらかさずに、しっかりと自分の答えを話せるようになりたい。

「芸術ってなんのためにあるの?」という問いへの答えが、とても美しく、心に残った。「手加減」をしない答えは、きっと子どもの心に真っすぐに届くだろう。

「···過ぎ去りゆく世界の彩り、きらめき、あるいは生きてあることの情感を、ただいたずらに過ぎ去らせたくはないという思いが、およそ「作品」というものを生み出そうとする表現活動の根底にはあると言えるかもしれません。私たちの心には、何か光るものが不意に舞い降りてきた生の瞬間を記念したいという根源的な欲望がひそんでいて、雨の日には雨の雫のきらめきが、晴れた日には青空のもとを吹きすぎていく風の光が、ただいたずらに流れ去ってしまわないうちに、それらを歌の言葉やメロディーや色かたちのうちに留めたいと願わずにはいられないのではないでしょうか。そんなふうにして、この世に生きてあることの感触や意味を再発見して編み直していくことが、私たちの生を内側から支えているのではないでしょうか···」
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