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日記一覧
- 本棚606『宮沢賢治イーハトヴ自然館―生きもの・大地・気象・宇宙との対話』ネイチャープロ編集室（東京美術）
- 2023年12月28日22:13
厳しくも豊かな花巻の自然の写真が、賢治作品の抜粋と相まって、理想郷イーハトヴの世界を現出している。冷害に苦しむ寒村は、言葉の筆によって、とりどりの色に染め上げられる。 どこまでも広がる雪景色に小さく残るキツネの足跡の写真は、「堅雪かんこ、
- 本棚605『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』畑中章宏（講談社現代新書）
- 2023年12月27日12:57
「孜々営々として働き、その爪跡は文字にのこさなくても、集落に、耕地に、港に、樹木に、道に、そのほかあらゆるものにきざみつけられている」 宮本常一は、この世界、歴史から放っておいてはこぼれ落ちてしまう「庶民」の生きてきた姿を書き残そうとし
- 本棚604『ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人』萬屋健司（東京美術）
- 2023年12月23日22:29
今から十五年ほど前、デンマーク人画家ハマスホイの日本で初めての回顧展を国立西洋美術館で観た時の驚きは忘れられない。 家具のほとんど置かれていない室内を描いた絵はどれも灰色を基調として、静謐を超えて、陰鬱でさえあるのだが、無性に惹きつけられ
- 本棚603『すぐわかる沖縄の美術』宮城篤正（東京美術）
- 2023年12月12日00:04
漆芸、染物、焼物、建築、民具などの沖縄の美術、多様な文化が溶け合ったチャンプルー文化の魅力をまとめた一冊。 黒漆を背景に精巧な龍の螺鈿が輝く漆器、涼やかな空色地に多彩な花々が揺れる紅型、琉球・日本・中国の建築様式が融合した首里城正殿、赤瓦
- 本棚602『東海道中膝栗毛を旅しよう』田辺聖子（角川ソフィア文庫）
- 2023年12月11日21:10
「わっさり、ふんわりした笑い」を追い求めた十返舎一九。お馴染みの弥次さん北さんの珍道中を描いた『東海道中膝栗毛』は、江戸の人びとの心をつかんだ。東海道の旅が終わっても、金毘羅や宮島、善光寺など参詣の旅のシリーズは続き、二人が江戸に帰り着い
- 本棚601『歴史を紀行する』司馬遼太郎（文春文庫）
- 2023年12月03日23:37
司馬遼太郎が各地に足を運び、歴史と風土が彫琢した「気質」を探る。「県民性」のように様々な差異を捨象してしまうリスクはあるものの、興味深い具体のエピソードを読み進めると、確かに土地土地の何らかの特色(著者の言葉を借りれば「傾斜」)が浮かび上が
- 本棚600『料理沖縄物語』古波蔵保好（講談社文庫）
- 2023年11月27日13:00
季節毎の沖縄の多様な料理にまつわる想い出も面白いが、著者の数奇な人生にも興味をひかれた。明治の終わり頃の沖縄で生まれた著者は、進学で上京し新聞記者になり、その後戦争により沖縄には帰れなくなる。戦後、米軍施政下にある沖縄へ行く物資運搬船に乗
- 本棚599『親密な手紙』大江健三郎（岩波新書）
- 2023年11月24日00:03
「その道筋を振り返ると、私は入り込んでしまう窮境を自分に乗り超えさせてくれる「親密な手紙」を、確かに書物にこそ見出して来たのだった。」 今年逝去された大江健三郎の最晩年の随筆集。著者の作品は、脳に障がいを持つ息子を想い起こさせるものが多く
- 本棚598『一号線を北上せよ』沢木耕太郎（講談社）
- 2023年11月19日20:18
ベトナムで南部のホーチミンと北部のハノイとを結ぶ一号線を北に向かう旅を中心とした旅行記である。著者の代表作『深夜特急』でも東南アジアは一部出てくるが、本書ではベトナムの人びとの活気や熱帯のねっとりとした空気感をたっぷりと味わえる。 『深夜
- 本棚597『十五才 学校�検抻嚇塚亮 奮兩酳幻法�
- 2023年11月13日12:29
夜間中学校、高等養護学校、職業訓練校と多様な学校を舞台にしてきた山田洋次監督の映画『学校』シリーズはどれも素晴らしいが、シリーズの最後となる本作では、不登校の中学3年生の大介が主人公となり、「学校」という場は現れない。大介は屋久島の縄文杉
- 本棚596『赤い十字』サーシャ・フィリペンコ著、奈倉有里訳（集英社）
- 2023年11月08日12:47
「タチヤーナは娘を見つける手がかりを探していた。死人の島、運命の難破。目を閉じては、洗濯物にアイロンをかけたり、アーシャをお風呂に入れたり、アーシャの服を洗濯したりするところを思い浮かべた。 「あたしたちはみんな、平和だったころは面倒に感
- 本棚595『家庭で作れるロシア料理ーダーチャの菜園の恵みがいっぱい!』沼野恭子・荻野恭子（河出書房新社）
- 2023年11月04日21:09
「パンよりも詩」と呼ばれるように、ロシアでは衣食住に関する物質的なものよりも、魂や文学に関する精神的なものが重視されてきたという。 しかし、本書を読むと、広大な国土であるロシアの料理は、中央アジアやコーカサス、バルトなど様々な隣接する地の
- 本棚594『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法の間』奈倉有里（創元社）
- 2023年10月30日22:29
若者に向けて、ことば、語学を学ぶこと、翻訳をすることの魅力やコツを語っている。ロシアの文学大学での想い出を綴った『夕暮れに夜明けの歌を』とはトーンが違って、遊び心と軽みがあるが、一途に好きなことに打ち込む清々しさは前作に通じている。ロシア
- 本棚593『江戸切絵図散歩』池波正太郎（新潮文庫）
- 2023年10月29日20:39
江戸も終わりに近づいた頃に作られた江戸切絵図。武家の屋敷や神社・寺院などが精緻に書き込まれた江戸の地図だ。「井伊掃部頭」や「紀伊殿」といった文字だけのシンプルな地図であるけれど、いやだからこそ、当時の人びとが地図をもとに江戸の街をぶらりと
- 本棚592『イスラエルを知るための62章』立山良司編著（明石書店）
- 2023年10月24日23:48
表紙に置かれた、お洒落なバーで乾杯をする若い女性達の写真の和やかさと、今この地で起こっている凄惨な出来事とのギャップを感じた。 1948年の建国当時、人口65万人のイスラエルは、装備も充分にない中、3100万人の近隣アラブ六カ国と第一次中東戦争を戦
- 本棚591『もっと知りたい 棟方志功』石井頼子（東京美術）
- 2023年10月18日19:18
今年度末で青森の棟方志功記念館が閉館してしまうのはさみしいが、先日行った東京国立近代美術館の棟方志功展のように、今後も各地の美術館で棟方作品に出会えるだろう。 「豊作という言葉は聞いたことのない土地」とされる厳しい風土、冬は白一色の雪に閉
- 本棚590『続 窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子（講談社）
- 2023年10月16日22:22
戦時中、トットちゃんが通っていたトモエ学園が空襲で焼け落ち、青森に疎開するところで前作は終わっていた。それから続編が出るまでに四十二年間という膨大な時間がかかったけれど、ユーモアに満ちた黒柳徹子さんの文章と愛らしいいわさきちひろさんの絵は
- 本棚589『面白くて眠れなくなる地学』左巻健男（PHP研究所）
- 2023年10月14日13:44
地球、気象、宇宙のはなし。地学の本を読むと高山に登ったかのように視界が広く開けていく心持ちになる。 先人達の発見の積み重ねによる科学の進歩は、「巨人の肩の上に立つ」と形容されるが、様々な発見も普及するまでには紆余曲折を経ていることがわかる
- 本棚588『ブラタモリ 3 函館 川越 奈良 仙台』NHK「ブラタモリ」制作班（KADOKAWA）
- 2023年10月09日15:55
仙台には2年近く住んでいたので、とても身近に感じられた。地形マニアの伊達政宗が、洪水や津波にしばしば襲われる仙台平野ではなくて、内陸部の河岸段丘に仙台城や城下町を築いたという話や、「杜の都」のルーツは武家屋敷の林であり、秀吉による国替えで
- 本棚587『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』奈倉有里（イースト・プレス）
- 2023年10月04日22:43
「その日に聴いた詩を味わいながら坂をのぼり、歴史図書館に向かう。寮に帰るともういちど清書したノートを開き、ノートから威勢よく聴こえてくる声に耳を傾ける。こんな日々がずっと続けばいいのにー幸せな日々の連続に、私はそう思うようになっていた。私
- 本棚586『徳川家康 弱者の戦略』磯田道史（文春新書）
- 2023年09月30日18:42
今の大河ドラマ『どうする家康』では、心優しく、時に弱さも見せる家康像が新鮮だった。狡猾な「狸親父」という評価は、江戸幕府を否定する明治維新後になされたものとは聞いていたが、本当の実像を知りたくて本書を手に取った。 表題の通り、本書は家康の
- 本棚585『100分de名著 シャーロック・ホームズ スペシャル』廣野由美子（NHK出版）
- 2023年09月29日21:48
本書は、具体のホームズ作品を多様な視点から読み解き、単なる作品紹介にとどまらず、ミステリーとは何か、ひいては小説、文学とは何かといった大きな問いへと繋がってゆく。 ホームズシリーズは、謎解きやトリックの面白さはもちろんあるが、「唇のねじ
- 本棚584『百万に一つの偶然』ロイ・ヴィカーズ（ハヤカワ・ミステリ文庫）
- 2023年09月24日18:26
ある本でおすすめのミステリーとして紹介されていて手に取った。 犯人が初めから明らかな倒叙型であり、古畑任三郎シリーズのように、ある手がかりから次第に犯人が追い詰められていく様子にハラハラさせられる。特に本作は、被害者が犯人に対して行ってき
- 本棚583『日本一心を揺るがす新聞の社説3』水谷もりひと（ごま書房新社）
- 2023年09月24日00:00
新聞社を舞台にした丸谷才一の小説『女ざかり』では、社説は「一説によると全国の論説委員を合計した数しか読者がいない」と揶揄されているように、新聞の社説欄を読む人は少ないだろう。 けれど、みやざき中央新聞の社説は、政治や経済、国際等について大
- 本棚582『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹（文藝春秋）
- 2023年09月18日11:08
村上春樹はこれまで多くのエッセイを著してきたが、自身の父親について語るのは珍しい。ある頃から父親と距離を取っていた旨が書かれるが、終盤、二十年以上全く顔を合わせず、父が亡くなる少し前になって再会したことが述べられ、その空白の期間の膨大さに
- 本棚581『美について考えるために』今道友信（ピナケス出版）
- 2023年09月16日22:39
人に生きる希望を喚起する光である「美」。著書は「美」を広く捉え、偉大な芸術家も、ビルの窓ガラスを拭く者も、我々一人一人も、全てを美の実践者とみなす。美の実践は、人の心を幸福にし、争いで殺し合う「世界戦場化」ではなく、「世界美化」へとつなが
- 本棚580『30％の幸せ』内海隆一郎（メディアパル）
- 2023年09月11日23:45
表題にもなっている「30％の幸せ」。満ちあふれる幸せでなくとも、失意の中で見つけたのなら、ささやかな幸せも光彩を放つ。 市井の人びとの哀歓を描いた内海隆一郎の短編「人びとシリーズ」の三百篇から二十篇を選んだ本書でもそれは貫かれている。『月
- 本棚579『東京の情景』池波正太郎（朝日新聞社）
- 2023年09月07日21:47
四十年ほど前の東京の風景を、池波正太郎が文章と自身の絵で描いている。開発によって懐かしい情景が失われてゆくことを著者は嘆くが、現在でも変わらない風景も確かに存在する。絶賛されている皇居の桜田濠は自分も毎日通っているが、著者が観た頃からほと
- 本棚578『ことばの果実』長田弘（潮文庫）
- 2023年09月04日17:26
長田弘さんの詩は、見慣れたものを、平易な言葉で新鮮なものに変える魔法のようである。様々な果物をめぐるエッセイからなる本書も、甘夏の「明るい孤独」の味や、「人生の悲しみみたいにでかい」スイカといったように、身近な果物たちが違った表情を見せて
- 本棚577『昭和・戦争・失敗の本質』半藤一利（新講社）
- 2023年08月28日21:11
先日、北の丸公園の隣りにある昭和館で催された半藤一利展に行った。靖国神社と九段会館（旧称軍人会館)の間に位置するからか、どこか先入観があったが、昭和館は戦中戦後の「国民」の生活の労苦を伝えていくことに力点が置かれていた。『この世界の片隅に
