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2019年05月31日12:24

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本棚156『闊歩する漱石』丸谷才一(講談社文庫)

 学者による評論だと、明確な論拠を求め言い淀んでしまうかもしれないが、作家である著者の評論は、自由でおおらかな魅力を持つ。
 漱石の作品から、『坊っちゃん』『三四郎』『吾輩は猫である』をとりあげ、それらを日本文学、ひいては世界文学の系譜の中に位置づける。

 『坊っちゃん』の歯切れのいい罵り言葉の列挙から、文学の物づくしの長い伝統と、新奇な工夫を凝らす20世紀のモダニズム文学へと話は及ぶ。『三四郎』の「ストレイ·シープ」の台詞については、「あれはおそらく明治末年の青春を、ひいては近代日本の運命を、優しく憐れむ言葉なのだ。」と語るように、著者の視野は限りなく広い。

 この3冊の漱石の本は、楽しく面白く読める本を愛し、自身もそうした趣向に富んだ作品を書いてきた著者らしい選択である。
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