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2019年06月20日00:00

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本棚164『快楽としての読書 日本篇』丸谷才一(ちくま文庫)

 先日読んだ海外篇に引き続いて読んだ日本篇。著者の書評を読むと、名人の至芸の落語を聴いているような、ゆったりとした穏やかな心持ちになる。
 著者の書評の凄さは、その本一冊の内容を的確に伝えるだけでなく、文学史や歴史等の大きな流れの中においてその本が持つ意味や位置づけまで語ることであり、それを裏打ちする深い教養がある。
 
 そして、文章の清冽な瑞々しさ。目利きの著者が選んだ123冊の本の魅力を存分に引き出している。どの文章も素晴らしいが、須賀敦子の『ミラノ 霧の風景』が心に残った。「感心」する書評にはこれまでも多く出会ったが、「感動」する書評というものもあると教えられた。

「文章のゆるやかな流れによつて心の渇きをいやしたいと願ふ人々にこの本をすすめる。···須賀敦子は、われわれは数多くの貴重なものを失ひながら生きつづけなければならないといふ辛い認識を、当今まれな上質の散文によつて差出す。そして重要なのは、愛惜するに足るものの価値を彼女が巧みに書くことができるからこそ、喪失が身にしみるといふ事情である。息の長い、しつとりとした、趣味のよい文章で、彼女はミラノの霧の匂ひを、ガッティの優しさを、夜のヴェネツィアの運河の水音とつながれてゐる小舟の舳先が波の上下につれて岸辺の石にこすれる音を書く。そしてもちろん亡夫とのしあわせな日々のこと。···わたしはこの本によつて、生きることの喜びと哀れさを存分に味はふ思ひがした。」
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