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日記一覧

 今日は柴又帝釈天に行った後、亀有の映画館で『男はつらいよ お帰り 寅さん』を観る。シリーズが始まって50周年、50作目を記念した22年ぶりの最新作だ。 これまで寅さんシリーズは全話観たけれど、映画館で観たのはこれが初めて。クスッと笑ったり、どっ

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 賢治、啄木、太宰、茂吉、藤村、一茶、一葉、中也、白秋、藤村ー。好きな人が見ていた風景に自分も入り込みたいという思いから、俵万智が作家のふるさとを訪れる。 太宰が『津軽』の中で「浅い真珠貝に水を盛ったような、気品はあるがはかない感じの湖であ

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 「社会学の魅力は、今までの人生を通じて生き続けてきた世界を、社会学の視界によって新しい光の下で見直すことを可能にしてくれることにある。」(ピーター·バーガー『社会学への招待』)  見慣れたものの意味が一変する知的興奮。本書はそうした社会

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 「有子は、空を見上げることが好きだった。殊に、青空を見上げていると、なんともいえないような力強さを覚えるのだ。あんな青空のような娘になりたい、と思う。たとえ、曇っている空を見上げても、彼女は、その空の彼方に、青空のあることを信じて疑わぬ娘

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 二千年前の古代ローマの姿をとどめるガールの水道橋、天蓋から荘重な光が射し込むサン・ピエトロ大聖堂、滝と一体となったフランク・ロイド・ライトの落水荘ー。本書では、ピラミッド、神殿·教会、宮殿·城、橋、世界の家、超高層ビルなど、古今東

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 『上品に美しいもの。薄紫に白いかざみ。雁の子(かるがもの卵)。けずり氷に甘茶をかけて新しい金の碗にいれたさま。水晶の数珠。藤の花。梅の花にふりかかった雪。いちごを食べる美しい幼児。』  枕草子と言えば、やはりものづくし。鮮やかな色彩、イメー

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 「···人間のだれもが、究極においては生きなければならない孤独と隣あわせで、人それぞれ自分自身の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、ながいこと理解できないでいた。 若い日に思い描いたコルシア

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 小説家、エッセイスト、批評家、書評家、文学研究家など多様な顔を持つ丸谷才一。本書は、2011年の没後に世田谷文学館で行われた連続講演をまとめている。 文学と社会とを結びつける書評文化を日本に根付かせた意義を語る湯川豊、丸谷作品の内にある兵隊体

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 小糠雨、沛雨、篠突く雨、滝落とし、彩雨、翠雨、香雨、木の葉時雨、菜種梅雨ー。 雨の多い日本らしい、雨にまつわる豊穣な言葉たち。初めて聞く雨の名前も多い。洒涙雨(さいるいう)は、七夕の日に降る雨。牽牛と織姫が逢瀬の後に流す涙とも、逢瀬が叶わな

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 たった五行ほどの短い解説文が、広大な詩歌の世界に誘ってくれる。大好きな栗木京子さんの短歌、「観覧車回れよ回れ想ひ出は 君には一日我には一生」「死真似をして返事せぬ雪の午後 生真似をするわれかもしれず」などに出逢ったのも、『折々のうた』だっ

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 「断崖の上に立つと、寒い風が正面から吹きつけて禎子の顔を叩いた。髪が乱れたが、彼女はそのままにして海と向かいあっていた。···陽は沈みきった。鈍重な雲は、いよいよ暗くなり、海原は急速に黒さを増した。潮騒が高まり、その上を風の音

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 一日一頁、古今東西の人物の言葉が紹介されている。年明けから毎日少しずつ読み進め、一年を前にしてようやく読み終えた。慌ただしい日々を送る人たちに、「せめて一日に数行でもいい、心を洗われるような文章なり詩歌なりにふれて、豊かな気持で生きてもら

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 今日は鎌倉の紅葉ヶ谷(もみじがやつ)を歩いた後、鏑木清方美術館と川喜多映画記念館へ。美術館は「清方と鏡花」展の最終日で、特別に学芸員の方の丁寧な解説を聴け、映画記念館も日本映画と文学の関わりを扱っていて興味深かった。 数々の洋画の名作を日本

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「取材や整理の記者職だけが新聞人の誇りを持っているなんて大きな勘違いだ。工場や輪転の人間はそれ以上に誇り高い。」「みんな貧乏だけど、本当に新聞を愛してる人しかうちにはいないの。だからあなたたち新人には、その心の部分を学んでほしいって私は思っ

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 鶴ケ谷真一の随筆は、晩秋の空気のように淡く清雅でいて、上質なユーモアもあり、読むと心が落ち着いてくる。『月光に書を読む』『猫の目に時間を読む』『記憶の箱舟』など著者の作品は題名がどれも魅力的だが、本書も例に漏れず、夕映えや月光のような穏や

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 タイトルが多くの意味をはらみ魅力的であることは、名作の条件かもしれない。 無数の電車が行き交う東京駅。十三番線のホームから十五番線の博多行き特急《あさかぜ》が見えるのは、たったの四分。この「四分間の目撃者」をつくったのは作為か偶然か、とい

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 翻訳によって西洋文明を次々と吸収し、急速な近代化を果たした明治の日本。本書では、翻訳の背景、何を、どう訳したか、徹底して翻訳主義をとった理由とその功罪などを、加藤周一が丸山真男に問いかける。東洋と西洋の思想に精通した丸山真男の「深さ」と、

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「数日吹き荒れた吹雪が去ったあとに、神の恩寵というしかないような晴天の一日が訪れ、そういう日は、月山は全山白雪に覆われた姿を現した。」 北国の小藩、海坂藩。この美しい名の架空の藩は、藤沢周平の多くの作品の舞台となってきた。本書は藤沢の小説や

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 この本にはゆったりとした時間が流れている。巡りゆく季節の中で、草木の恵みを受け取って、糸を染め機を織る仕事。「天の滴りをいただく」と言う著者の姿は、凛として美しい。 染色の話であるのに、何か人生、生き方を顧みるような心持ちになる。例えば、

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「水は、のどの渇きが教えてくれる。 陸地はーはるばる通ってきた海が。 歓喜はー苦痛がー 平和はー戦いの物語がー 愛は、形見の品がー 小鳥は、雪が。」 アメリカ北東部のニュー·イングランドの田舎町に生まれたエミリ·ディキンソンは、ある

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 一時期、向田邦子さんのエッセイに熱中していた頃があった。煤煙で苦労した汽車旅や七輪で焼いた魚、ご不浄といった上品な言葉など、昭和の郷愁を誘う様々な舞台装置も魅力ではあるが、もっと普遍的なものー描かれる日々の生活の確かな手触り、食べ物や匂い

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「雪はげし抱かれて息のつまりしこと」  俳句というと、侘び寂びや枯淡といった静的な印象があったが、橋本多佳子のこの句に出会って、激しさや恋情も存分に描きうることを知った。 津々浦々の旅の句や自然の情景を詠んだ句もいいが、やはり橋本多佳子の魅

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 終わりの見えない香港のデモ、米中の経済摩擦、ぎこちない日中関係、それらの行方を知る足がかりになればと思い手に取った。百ページほどのコンパクトな本だけれど、近年の動向を中心に中国の政治体制の全体像を掴むことができる。「脅威」と「崩壊」のどち

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 「立ちはだかる死と直面して、命を賭けて駆け抜けようとする時、人は過ぎ越し方の光景を束の間に見るという。···死を怖れ、怯えてただとり乱すことと、死ぬ覚悟を決めた上で息の根のある限り生きようと足掻くこととは別だ。」(『麦畑のミッ

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 人間を愛し、人間を尊重するヒューマニズムの精神を重視した吉野源三郎のこの文章は、大人に向けた『君たちはどう生きるか』とも言えるかもしれない。 ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』では、人間性についての「思考実験」であるかのように露土戦

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 「汝、夜を昼に変える 目も綾に眩き女神」 エピグラフから、妖しげで幻想的なミルハウザーの世界へと誘われる。白い月の光が指し、暖かさと涼しさが入り混じったアメリカ東海岸の夏の夜の濃密な空気。月の光を浴びて屋根裏の人形たちは動き出し、マネキン

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 ゲーテ、カフカ、トーマス·マン、トルストイ、モーム、漱石など十二人の文豪を思わせる人物に、文学の世界に足を踏み入れようとする若者が問いかける。それらは格式張ったインタビューという形式ではなく、各々が劇的な物語となっている。 会話の内容

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 明治の鉄道の黎明期から始まり、戦前の弾丸列車計画、東海道·山陽新幹線の開通、今も建設が続く各地の整備新幹線、リニア新幹線と、新幹線の通史がまとめられている。それは、与党や省庁、地方自治体、国鉄·JRなどの各主体の思惑と駆け引きによる

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 信州の四季を切り取った写真集。多くの名峰が聳え立つ信州は、可憐な高山植物に満ちた「花の王国」でもある。花々が咲き乱れる春·夏から、錦繍の秋、静寂の冬へと自然の時は連綿と移ろってゆく。 白樺の純林の白が、立ちこめる霧の白へと溶けていく中

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 「父や、頼もしい兄弟の多くを戦乱で失い、時代の激変によって浮沈する人の運命を如実に、身近に見つめながら、その悲劇には直接触れず、歌の表現に賭けた女性歌人が『新古今和歌集』にはじつに多いのである。」 古事記·万葉集から現代までの60人の女

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