200年にわたる西洋近現代絵画の豊穣な歴史。一般的な美術書のように、「主義」や「巨匠」の変遷を追うのではなく、画家たちが新しく「何を」描こうとしたのか(主題とテーマ)、どのような手法で「いかに」描こうとしたのか(造形と技法)、新しい絵画が誕生する様々な条件(受容と枠組み)という切り口から迫る。
観念的にならずに、200点近い豊富な図版に基づいて語られ、その文章は理知的であり、瑞々しい情趣も兼ね備える。例えば、スーラの「グランド·ジャット島の日曜日の午後」。
「日曜の午後にパリ近郊の島で余暇を楽しむ、さまざまな階級、職業の老若男女たち。ただし、その多様な登場人物は整然とした構図に見事に収まっており、まるで動きを止められた人形のようです。現代生活の1コマを永遠に定着したその大画面には、古典的とすら形容し得る格調と静けさが漂っています。」
伝統的な絵画と革新的な絵画がせめぎ合いつつ、滔々と流れる絵画の大河。その全体を俯瞰しつつ、「能動的に」絵を見る視点を養ってくれる良書である。その背後には、著者の絵画、芸術への真摯な想い、信頼がある。
「私たちが生きる現代は、人間の無力や愚かしさを感じることが多く、決して幸福な時代とは言えないのかもしれません。けれども、そういう時代だからこそ、人間の存在証明のような文化や美術を大切なものと考えたいし、イメージの持つ力や魅惑を信じる心を持ち続けたい。」
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