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日記一覧

 今の大河ドラマ『どうする家康』では、心優しく、時に弱さも見せる家康像が新鮮だった。狡猾な「狸親父」という評価は、江戸幕府を否定する明治維新後になされたものとは聞いていたが、本当の実像を知りたくて本書を手に取った。 表題の通り、本書は家康の

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 本書は、具体のホームズ作品を多様な視点から読み解き、単なる作品紹介にとどまらず、ミステリーとは何か、ひいては小説、文学とは何かといった大きな問いへと繋がってゆく。  ホームズシリーズは、謎解きやトリックの面白さはもちろんあるが、「唇のねじ

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 ある本でおすすめのミステリーとして紹介されていて手に取った。 犯人が初めから明らかな倒叙型であり、古畑任三郎シリーズのように、ある手がかりから次第に犯人が追い詰められていく様子にハラハラさせられる。特に本作は、被害者が犯人に対して行ってき

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 新聞社を舞台にした丸谷才一の小説『女ざかり』では、社説は「一説によると全国の論説委員を合計した数しか読者がいない」と揶揄されているように、新聞の社説欄を読む人は少ないだろう。 けれど、みやざき中央新聞の社説は、政治や経済、国際等について大

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 村上春樹はこれまで多くのエッセイを著してきたが、自身の父親について語るのは珍しい。ある頃から父親と距離を取っていた旨が書かれるが、終盤、二十年以上全く顔を合わせず、父が亡くなる少し前になって再会したことが述べられ、その空白の期間の膨大さに

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 人に生きる希望を喚起する光である「美」。著書は「美」を広く捉え、偉大な芸術家も、ビルの窓ガラスを拭く者も、我々一人一人も、全てを美の実践者とみなす。美の実践は、人の心を幸福にし、争いで殺し合う「世界戦場化」ではなく、「世界美化」へとつなが

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 表題にもなっている「30%の幸せ」。満ちあふれる幸せでなくとも、失意の中で見つけたのなら、ささやかな幸せも光彩を放つ。  市井の人びとの哀歓を描いた内海隆一郎の短編「人びとシリーズ」の三百篇から二十篇を選んだ本書でもそれは貫かれている。『月

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 四十年ほど前の東京の風景を、池波正太郎が文章と自身の絵で描いている。開発によって懐かしい情景が失われてゆくことを著者は嘆くが、現在でも変わらない風景も確かに存在する。絶賛されている皇居の桜田濠は自分も毎日通っているが、著者が観た頃からほと

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 長田弘さんの詩は、見慣れたものを、平易な言葉で新鮮なものに変える魔法のようである。様々な果物をめぐるエッセイからなる本書も、甘夏の「明るい孤独」の味や、「人生の悲しみみたいにでかい」スイカといったように、身近な果物たちが違った表情を見せて

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