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2019年06月15日17:30

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本棚162『百年文庫6 心』ドストエフスキー 芥川龍之介 プレヴォー(百年文庫)

 人びとの、繊細でいて、激しさを秘めた心の機微を描いた3編の小説。

 ドストエフスキーの『正直な泥棒』は、弱く愚かで、それゆえに愛すべき尊い人間という存在を浮き彫りにする。
 芥川龍之介の『秋』、森鷗外が訳したプレヴォーの『田舎』はいずれも、こうじゃなかったはずのもう一つの人生を、常に心に抱えつつ生きていかざるを得ない男女の、人間の業のようなものを、日本とフランスという国の違いを超えて感じさせる。

 『秋』は、登場人物の心の葛藤を細やかに描き出す。信子は結婚も考えていた従兄に対する妹の愛を知り、自身は別の家へと嫁ぐ。ある秋の日、久方ぶりに、結ばれた従兄と妹の家庭を信子が訪ねる。愛情や懐旧、後悔が混ざりあった信子の思い、無垢で快活な妹の感謝や詫びの中に垣間見られる嫉妬といった、様々な感情が複雑に重なり合う。
 そうした感情が、さりげない仕草や物に仮託され描かれている。夜、好い月が出ていると従兄に誘われ庭に出る信子の、足袋を脱いだ足に触れた「冷たい露の感じ」など、妖艶な巧みさがある。冷ややかで静謐な秋の寂寥も、背景として相応しい。
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