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日記一覧

 本棚37で、『あなたに褒められたくて』という高倉健の初めてのエッセイ集を紹介した時、山田洋次監督との以下のやりとりを取り上げた。 「愛するということは、   その人と自分の人生をいとおしく想い、   大切にしていくことだと思います」   『幸

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 「男はつらいよ」シリーズは全48作。本棚59で書いたように心に残る名言は無数にあり、また喜劇でありながら、涙を抑えることができない場面も存在する。ほぼ全ての作品についての解説を載せている本書と、過去の記憶を頼りに、自分にとって忘れえぬ感動を覚

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 東北に来てから、「ハタハタ」という魚をよく食べるようになった。身に独特なコクがあって、しょっつる鍋やから揚げなどどのような食べ方をしても美味しく食べることができる。秋田をはじめとする日本海側の冬の味覚で、本書の著書のふるさと、山形県は鶴岡

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 山田洋次監督の映画『息子』は大好きな映画のひとつだ。東北地方から東京に出てきてフリーターをしている息子と、東北でひとり農業を続けている父親。息子は、重たい金属の棒を運搬する仕事に就き、工場の事務員として働く聾唖者の女性と恋に落ちる。 映画

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 今年の7月に祖母が亡くなった。優しい祖母だった。お盆やお正月などに会うと決まって本を買うお金をくれ、祖母のおかげで今のように本を好きになれたと思う。ここ数年は介護が必要となっていたけれど、その前にもっとたくさん話をしておきたかったと思う。

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 仙台、東北の地に来て、もうすぐ一年が経とうとしている。 この一年、東北の歴史や文化などに関する本を色々と読んだが、やはり印象的だったのは「敗北」の歴史である。本書でも指摘されているが、稲作・弥生文化の北上による文明史的な敗北、アテルイから

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 人は誰でも、忘れられない風景、郷愁をかきたてるような風景を心の中に抱いているのではないか。 お台場海浜公園の夕暮れ―まだ作りあげられる途中であるレインボーブリッジを遠景に、凪の海には屋形船が浮かんでいる。ぼんやりと霞むような大気を、傾いた

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 舞台は、江戸初期の長崎。長崎奉行所で通辞(通訳)として働く上田与志は、ささやかな出世と、ポルトガル人との混血の女性コルネリアとの幸福な生活を望むが、鎖国体制が進められていく時代の大きな流れに二人は翻弄されていく。 キリシタンの弾圧や商人同

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 「オンサイト」とは、クライマーがたった一度の挑戦で、一度も落ちることなく、岩を登りきることを言う。 主人公の麻耶は小学6年生の時、長野の小さな山あいの町に転校し、そこで、同級生のサッカー少年の舜と、ロッククライミングに出会う。ひ弱でやせっ

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 「山の端から十三夜の月が上っていた。  月はしっとりと深い群青の夜空の、その一角のみをおぼろに霞めて、出で来た山の黒々とした稜線から下をひときわ闇濃くしていた。」 このように始まるこの物語は、読み手を昭和の初め、南九州の小島である「遅島」

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 部活動における体罰の問題に関する報道がしきりになされていた頃、桑田は体罰や暴力を一貫して否定し続けてきた。本書においてもその姿勢は変わらず、自身が学生時代に受けた体罰の経験に基づく桑田の言葉は重く、「スポーツとは、正々堂々とフェアに戦うも

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 この連休に、家族で長崎の壱岐に行った。日本海に浮かぶこの島は、高校生の頃に陸上、特に駅伝をテーマにした『奈緒子』という漫画に出会って以来、ずっと憧れの場所だった。 物語の中では「波切島」とされる壱岐。どこまでも澄みわたる海は五月の優しい陽

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 大学生の頃、色々なためになる講義を受けたけれど、最も楽しかったもののひとつが1年生の頃に受けた柴田先生の翻訳の授業だった。毎週異なる英米小説を読んで、小説の気に入った個所を訳して添削してもらうのは大変だったけれど、先生自身が英米小説の翻訳

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 「根府川  東海道の小駅  赤いカンナの咲いている駅    たっぷり栄養のある  大きな花の向うに  いつもまっさおな海がひろがっていた  中尉との恋の話をきかされながら  友と二人ここを通ったことがあった」 岩波文庫の表紙に、この「根府

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 山口仲美さんの著作に初めて出会ったのは、岩波新書の『日本語の古典』だ。古事記、竹取物語、枕草子、源氏物語、今昔物語、平家物語、奥の細道、南総里見八犬伝など古典の名著30作を紹介する『日本語の古典』は、著者が専門とする、言葉や表現、文章の特色

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 辻邦生の文章からは、常に芳醇な香りが漂ってくる。小説の舞台は、古代ローマ、ルネサンス、戦国時代など時代も場所も様々であるが、いずれもロマン的な典雅な雰囲気に満ちている。 著者は多作な小説家であったが、エッセイも数多く書いている。旅に関する

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 生が尽きる前に、一冊本を読んでいいと言われたら、迷わずこの本を手に取るだろう。 初めてこの作品に出会ったのは、中学校の国語の教科書だった。臨時の理科の教師の紺野先生と自分と同じくらいの歳の中学生たちとの、一時のさりげない交流が魅力的で、興

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