山川草木、鳥獣虫魚ー生きとし生けるものへの愛おしさが伝わってくる随筆集。
大きなものだと、六千年の糸杉の巨木。「そんなものが一つ、まだ見ぬメキシコの森林に存在することを思うだけでも、私の心は波のように踴躍する。」小さいものだと、冬の夕暮れに揺れる真っ赤なまんりょうの実。「持って生れたいささかの生命をいたわり、その日その日をさびしく遊んで来たまんりょうよ。またしても風もないのに、お前の小さな紅提灯が揺れ、そしてまた私の心が揺れる。」
様々な動植物について、古今東西の逸話を散りばめて軽やかに語られる。随筆の名作『茶話』にあった、諧謔や皮肉、毒気は薄まり、明澄な読後感をもたらす。病が重くなり起居も困難になった頃の作品であるからか、自然に対するあたたかな眼差し、畏怖が感じられる。
詩人から新聞記者、コラムニストになった泣菫。大正以後は詩作を離れていたと言うが、再び詩人に戻ったかのように、詩情が紙背に漲っている。
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