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2019年07月22日23:08

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本棚174『「新しい人」の方へ』大江健三郎(朝日文庫)

 自身の少年時代、青年時代の経験を基に、子供たちに向けて書かれた本書は、大江健三郎版の『君たちはどう生きるか』とも言えるだろう。
 平易な言葉遣いであるが、「意地悪さ」への立ち向かい方、ウソをつかない力をつけるといった文章には、時に大人もハッとさせられる。

 本の読み方についての文章も、子供だけでなく、大人も参考になると思う。著者のフランス文学の師は、卒業にあたって、ある作家や詩人、思想家を決めて、その人の本や研究書を二年から三年集中して読み続けるようにと言う。そして、4年目には別の作家、新たなテーマへと移っていく。
 自分のように専門の研究者ではない多くのひとにとって、幅広い読書をする一方で、テーマを決めて意識的、能動的に本を読み、そのテーマについては自分としての意見を持てるようになる読み方は有益だろう。

 また、四国の森の中の村で、将来の進路に思い悩む若き日の想い出は、ノーベル賞作家という大きな肩書きの背後にある、等身大の著者の姿を感じさせる。
 著者と家族にとっての、障がいを持つ長男の光さんの存在の大きさも心に残った。当初は忍耐ということだけを考えていた著者の、「いま希望がそれと一緒にあったことにも気付く」という言葉は、大江作品を読む上での確かな足掛かりになるだろう。
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