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2019年05月25日19:32

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本棚154『欅の木』原作内海隆一郎 作画谷口ジロー(小学館)

 人びとの心の機微を描く内海隆一郎の短編小説を、谷口ジローが綿密な描線で漫画に仕上げている。

 「母親の手が背中を撫でてくれていた。ノエミさんは、胸の奥から寄せてくる温かい波に心をゆだねながら、彼の微笑みを感じていた。」若くして日本人の夫に先立たれたフランス人女性が日本に残り、年月を経て、結婚に反対し続けていた夫の母親と和解する『彼の故郷』。
 「通りの角まで来てようやく後ろを見た。画廊の前に「妻」が一人で立っていた。ふり向いた岩崎さんへ丁寧にお辞儀をしてよこした。いい娘に育ててくれたね。岩崎さんはそれだけをいいたかった。それでしばらく立ちどまったまま遠くの「妻」を見ていた。やがて言葉のかわりに深々と頭をさげた。」出張先の地方新聞で、離婚により23年前に別れた娘が個展を開いていることを知り、気付かれないようにそっと会いに行く『再開』。

 その他多くの話が、人びとの心の通い合いを描いている。ことさらに涙を誘おうとする「お涙頂戴」ではない、抑えられた筆致であるが、じんわりと心の芯が温まり、自ずと涙が流れ出る。
 また、幼子から老人まで多様な人びとが描かれており、読み手が年齢を重ね、喜びも悲しみも経験することで、この本の受けとめ方は変化し、読みも深まっていくような気がする。ずっと手元に置いておきたい一冊。
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