沛然として降る、晩秋の冷たい雨。下巻では、主人公の所属するイタリア軍が敗走し、主人公は軍を離脱し恋人のキャサリンと共に逃避行を図るが、常に雨が降りしきっている。上巻の、戸惑いを感じるまでの明るさとのコントラストが効いている。
一転して、警備の目を逃れてボートで辿り着いたスイスでは、雪深い山荘での穏やかな日々が訪れる。先の見えない暮らしではあるけれど、身重のキャサリンとの幸福な時間が流れている。
やがて春が来て、雪が雨へと変わる。この小説では一貫して、雨は何か禍々しいものをもたらす象徴、ひたひたとにじり寄る死神のように感じられる。
戦争という一個人の人生を翻弄する巨大な力から逃れたものの、運命という更に大きな力からは逃れられなかった。ラストの一文はたった七文字だが、その無情さを雄弁に物語る。その姿の大半を海中に隠す、氷山のような文章を理想としたヘミングウェイの真骨頂と言える。
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