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2019年05月26日21:01

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本棚155『書を読んで羊を失う』鶴ケ谷真一(白水社)

 「讀書亡羊」―羊の放牧中、読書に夢中になるあまり、肝心の羊に逃げられてしまったという『荘子』の故事。一般にネガティブに用いられるけれど、編集者であった著者の、本への愛情を知ると、「読書がいかに人の心をとらえたか」と、プラスの意味へと転化する。

 近世·近代の日本を中心に、古今東西の本、読書にまつわる話が縦横無尽に展開される。二千年以上昔の、師弟が静かに豊かに語り合う情景を浮かび上がらせる、『論語』の細部の効果など、興味深い挿話に満ちている。

 その中で、多読と精読についての文章に考えさせられた。良寛のように、一冊の本を心から味わって読む例を示した上で、著者は精読とは本来、多読の上に到達するのではないかと言う。

「何か満たされぬ思いをいだいて、次から次へと本を読みあさるようなとき、自分のほんとうに求めているのは、未だ出会うことができずにいる、ある一冊の本なのではないかと思うことがある。」

 辻邦生や宮沢賢治など好きな作家、好きな作品はあるけれど、「ある一冊の本」には、まだ出会っていないと思う。その出会いがいつになるかは分からないが、出会うまでの過程を楽しみつつ、これからも本を読んでいきたい。
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