著者の見田宗介氏は、社会学者であるとともに、壮大な視点を持つ思想家だと思う。
世界人口の増加率が1970年代から減速に転じたように、変化の急速な「近代」という爆発期を過ぎ、変化の小さい安定平衡期の時代に入っている。
本書の副題にもなっている「高原」とは、そうした曲がり角に立つ現代社会を指しているが、それは経済成長が終わり、停滞した退屈な社会ではなく、人間の生きる世界の有限性を知った上で、成長と開発に代わって、共存と共生が基調となる前向きなものとして、著者は捉えている。
資源の浪費や環境の汚染を伴い、経済的な富の増大を追い求める社会から、経済に依存しない幸福の領域が拡大していく社会への転換。著者は観念的にならずに、世界価値観調査などの国内外の青年の意識の変化といったデータに基づき論を展開し、シンプル化、ナチュラル化、脱商品化へと向う現代社会を明らかにする。
地球温暖化の進展や経済覇権を巡る米中の対立、ポピュリズム·自国中心主義の拡大といった今の世界を見ると、著者の考えを理想的、楽観的と指摘するのは容易かもしれないが、目指すべき理想を持たずに改善が進むことはないだろう。
80歳を超える著者が、次代の読者に伝えようとする言葉は重い。
「奇跡のように恵まれた小さい、そして大きい惑星の環境容量の中で幸福に生きる仕方を見出さないなら、人間は永久に不幸であるほかはないだろう。」
「経済競争の強迫から解放された人間は、アートと文学と学術の限りなく自由な展開を楽しむだろう。···友情を楽しむだろう。恋愛と再生産の日々新鮮な感動を享受するだろう。子どもたちとの交歓を楽しむだろう。動物たちや植物たちとの交感を楽しむだろう。太陽や風や海との交感を楽しむだろう。ここに展望した多彩で豊饒な幸福はすべて、どんな大規模な資源の搾取も、どんな大規模な地球環境の汚染も破壊も必要としないものである。つまり、永続する幸福である。」
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