タランティーノの優しさがにじみ出る 『ﾜﾝｽ･ｱﾎﾟﾝ･ｱ･ﾀｲﾑ･ｲﾝ･ﾊﾘｳｯﾄﾞ』

クェンティン・タランティーノ監督の９番目の長編映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を見て来ました（『キル・ビル』を２本に分けると10本目の監督作品）。


※ご注意。以下、映画の内容に深く触れる記述があります※


【物語】
1969年ロサンゼルス、ハリウッド。
かつて何本かの映画に出たものの、ＴＶ出演で人気も下降中のスター、リック・ダルトン（ﾚｵﾅﾙﾄﾞ･ﾃﾞｨｶﾌﾟﾘｵ）。彼のスタントマンかつ相棒兼親友のクリフ・ブース（ﾌﾞﾗｯﾄﾞ･ﾋﾟｯﾄ）。マカロニ・ウエスタンで主役の話が持ち上がるも、リックは今ひとつ乗り気ではない。一方のクリフはあくまでマイペースだった。
そんな折、リックの隣の邸宅に、新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキー（ﾗﾌｧｴﾙ･ｻﾞﾋﾞｴﾙﾁｬ）と、妻で女優のシャロン・テイト（ﾏｰｺﾞｯﾄ･ﾛﾋﾞｰ）が引っ越してくる。凋落気味のリックにとって、隣の２人はまぶしい存在であった。しかしある晩、不審なヒッピー風の男女が静かに忍び寄り…。


…『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーとナチ高官を焼き殺すというド派手な歴史大改変をやらかしたタランティーノ監督は、ここでも実在の”シャロン・テイト事件”を改変して見せます。タランティーノがはじめて史実と向き合うかと思っていたので、これにはちょっと驚きました。

非業の死を遂げた若きハリウッド女優への鎮魂歌のようでもあり、古き良きハリウッドへの鎮魂歌でもあるようで、そのラストはタランティーノ史上最も優しさに満ちています。
（しかし中には、それを良しとしない関係者も多いことでしょう）

劇中、自身の出演作『サイレンサー／破壊部隊』の上映劇場を見つけたシャロン・テイトが観客とともに映画を鑑賞し、ブルース・リー（ﾏｲｸ･ﾓｰ）との稽古を述懐しながら幸せに浸るシーンからは、タランティーノの映画愛が見て取れます。本当に映画が好きな人でないと、こんなシーンは撮れません。

とはいっても同監督お得意の、噴出するバイオレンスなシーンもちゃんと登場。
クライマックスの阿鼻叫喚地獄は、演じるブラッド・ピットの不気味な笑みを浮かべた怪演技と相まって強烈です。

ディカプリオ演じる落ちぶれたスターも良かった。
先行き不透明な現在の映画業界を体現しているようでもありました。


登場する映画ネタもゴマンとあるので、そちら方面の楽しみもある映画です。★★★★。