高山善廣ほどのベテランレスラーが、前方回転エビ固めの失敗でレスラー生命を絶たれるほどの重傷を負うとは考えにくいと思いますが、今回はその要因について考えていきたいと思います。
まず、当時の高山のコンディションですが、やはり身体つきを見る限り良好とは言えず、十分なトレーニングを積んでリングに上がっていたとは考えにくいです。
04年8月8日新日本プロレスの大阪府立体育会館での佐々木健介戦の後、脳梗塞を発症し2年の歳月を経て復帰、その後、09年3月14日には全日本プロレスの両国国技館でグレート・ムタをエベレスト・ジャーマンで破り、三冠ヘビー級王座を獲得、新日本プロレスのIWGPヘビー級、プロレスリング・ノアのGHCヘビー級王座と併せてメジャー3団体グランドスラムを達成します。
しかし、試合はスピードを欠き、キックの打点の高さやスピードも十分ではなく、つなぎ技として試合中に見せるフロント・スープレックスも、ロープの反動を利用して軽く投げるだけで身体は反っていません。
同年代の鈴木みのるがしっかり身体を作って50歳を過ぎても綺麗なドロップキックを見せているのを見れば、体調が万全でないのにリングに上がっていたかと思われます。
現在の日本のプロレス界の試合の組み立てはドラゴンゲートがスタイルを確立させた「ジャパニーズ・ルチャ」であり、DDTの試合スタイルもそれに近いもの。
高山が前方回転エビ固めを仕掛けたヤス・ウラノはジャパニーズ・ルチャの祖、ウルティモ・ドラゴンの浅井嘉浩がエースだったユニバーサル・プロレスの派生団体であるみちのくプロレス出身のTAKAみちのくが創設したK-DOJOから出たレスラーであり基本的にはルチャスタイルのレスラー。
高山が観客を沸かせようと前方回転エビ固めを出して巨大の割には器用なところを見せようという流れでヤスもそのあたりは熟知していて、受ける体勢にはなっていましたが、高山の身体が回りきらなかった。
三沢光晴、ハヤブサの時と同じで、「本人は回り切ったつもりだったけど回っていなかった」。脳の司令通り身体が動いてはくれなかった、ということでしょう。
高山の状態が「回復の見込みはない」という記者会見が行われた2017年9月4日の翌9月5日、蝶野正洋がテレビで高山の事故についてコメントしており、自らも首を痛めている蝶野ならではの視点で語っていますので同9月6日のJ−CASTニュースから抜粋して引用してみたいと思います。
『プロレスラーの高山善廣選手(50)が、頸髄完全損傷という大けがを負った件で、先輩レスラーに当たる蝶野正洋さん(53)がテレビ番組でコメントした。
練習で鍛え抜かれた体をもつレスラーだが、過去には死亡事故につながった例もある。命の危険と隣り合わせのファイトだと肌で知る蝶野さんは、高山選手の事故をどう感じたのか。
蝶野さんは、自らが司会を務める「バラいろダンディ」(TOKYO MX TV)の2017年9月5日放送時に、高山選手の現状について真剣な表情で話した。過去に脳梗塞を発症後に復帰した点に触れて「不屈の闘志を持っている人ですから、ぜひがんばってもらいたい」と励ます一方、プロレス業界全体での事故防止を問われてこう答えた。
「使う側、団体側がそういう(事故防止の)ルールをつくるしかないと思います。選手は多少のけがを負ってでも、無理をしてでも自分をアピールしようと思って出る。これはどの業界でも変わらないと思う。使う側がそこをちゃんと見極めて、規制をつくらないと止めようがない」
大手プロレス団体でも、チャンピオンになれるのはほんの一握りのレスラーだ。競争は激しく、油断をすればポジションが奪われる。またフリー選手や小規模団体の所属選手は「食べていく」ためにやはり多少の無理を覚悟しなければならない。選手側だけでは決められない事情がある点を、蝶野選手はよく分かっているようだ。
最大手団体の新日本プロレスでは、2017年だけでも本間朋晃選手(40)が頸髄損傷、柴田勝頼選手(37)が硬膜下血腫で緊急入院、手術する事態となった。いずれも試合中の事故が原因だ。団体側はもちろん、選手の健康管理に注意を払っている。
2017年6月6日付の日刊スポーツ電子版記事によると、所属選手は6年前からMRI(核磁気共鳴画像法)やCT(コンピューター断層撮影法)を含めた健康診断を国際医療福祉大や三田病院などで年1回実施し、そのデータを蓄積しているとのことだ。試合前はトレーナーにマッサージを受けるなど入念な準備をしているという。
「バラいろダンディ」では、タレントの内山信二さん(35)が蝶野さんに、「昔よりも(プロレスの)技が激しくなってますよね」と問いかけた。対戦相手から勝利を得るために、大技が高度かつ危険になっているとの指摘は、ある。受け身がとりにくく、頭部に直接大きな衝撃が走る落下技は、見ていてヒヤっとする場合もある。
内山さんに対して蝶野さんは、高山選手のキャリアが25年以上である点に触れて、「そこらへんの(年数の)選手になると古傷があります」と答えた。1試合だけの影響ではなく、長年の「勤続疲労」で悪化を続けていた患部が、何かの拍子で「暴発」する可能性もあるというわけだ。
高山選手が首を負傷したのも相手の大技を受けたからではなく、マットの上で相手ともどもくるりと一回転して抑え込む「前方回転エビ固め」をねらった際だった。脳梗塞から復帰後もファイトを続けてきた高山選手だが、キャリアを重ねると共に体のダメージがたまっていたのかもしれない。
そのうえで蝶野さんは、こう発言した。
「(レスラー)本人たちも怖いんですよ、リングに上がる時は。ただリングに上がったら、そういった制御がなくなっちゃうところがある。今回はリングで起きた事故なんですけど、業界全体、プロモートする側、使う側がルールをかけないと止まらないと思います」
先述の日刊スポーツの記事によると、新日本プロレスの三沢威メディカルトレーナーは、試合数を限定して選手のシリーズ参戦を考える意向を表明し、木谷高明オーナーも「選手の健康管理をすべて見直していきたい」と話したという。どこかでブレーキ役が必要な時期にきているのかもしれない。』※()内年齢は当時のもの。
新日本プロレスでは、2017年4月9日両国国技館でのオカダ・カズチカとのIWGPヘビー級選手権試合で急性硬膜下血腫となり、長期欠場となった柴田のレスラー契約を更改せず、ロス道場のコーチとしての職を任命しましたが、22年1月4日に復帰した後、新日本プロレスを退団し、24年、米AEWに移籍しました。
高山も柴田も体調面に不安を残しながらも家族がおり、プロレスラーとしてのアイデンティティもあり無理してリングに上がっている感は否定出来ず、試合に出るな、というのは死活問題でありこのあたりはいくら団体側が規制を作っても「試合をしたい」というのは止めることは出来ない、というのが現実です。
今年2025年も9月3日に後楽園ホールで高山善廣エイド「TAKAYAMANIA」が開催されます。高山が出来るだけいい状態で観客の前に姿を見せてくれることを願いたいと思います。(この項完)
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