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2022年10月16日22:18

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映画日記『秘密の森の、その向こう』

2022年10月16日(日)

『秘密の森の、その向こう』(2022年)
監督:セリーヌ・シアマ
伏見・ミリオン座

きっと、ネリーという女の子は入院病棟の人気者だったのだろう、「さようなら」を言うために訪れる病室で、誰もが「さようなら」と優しく声をかけてくれた。
しかし、ネリーには心残りがある。それは亡くなったお祖母ちゃんに「さようなら」を言えなかったこと。
そして、ネリー以上に心を痛めていたのが彼女のお母さん・マリオンだった。
ネリーが両親といっしょに亡くなったお祖母ちゃんの家を後片付けしているとき、お母さんのマリオンが母を失った悲しみに耐えきれず、思い出のいっぱい詰まった祖母の家を飛び出してしまった。
父と二人っきりで後片付けをするネリーが、ひょんなことからお祖母ちゃんの家の向こうに広がっている森に分け入ると、そこには枯れ枝で組み立てた秘密の小屋を作っている、ネリーと同じ年頃の女の子がいた。ふたりはすぐ仲よしになる。
ネリーが名前と聞くと、女の子はマリオンと答えた。
そして、招かれマリオンに家に行くと、そこはお祖母ちゃんの家とそっくり。
さらに、マリオンのお母さんは、亡くなったネリーのお祖母ちゃんと同じで、足が悪くステッキをついていた。
ネリーはおもった。小っちゃなマリオンは私のお母さん、ステッキをついているのは私のお祖母ちゃんだ・・・・・

『燃ゆる女の肖像』(2021)のセリーヌ・シアマ監督の新作。
『燃ゆる女の肖像』の、真っ青な海と打ち寄せる波が白く砕け散る、荒々しくて力強い映像から一転して、『秘密の森の、その向こう』は色づく森と、そこにそそがれる秋の陽ざしの柔らかさに包まれていた。
カメラがとらえた画面の色調から、作品のテーマが浮かびあがってくる。
本作のテーマは、秋の淋しさとやさしさだ。
秋色に包まれたふたりの女の子が、ほんとうに可愛い。
ふたりがきゃっきゃと笑い声をあげながらクレープを作るシーンの、なんと多幸感に満ちてることか!!
なにも、大金を掛けたCGシーンでなくても、心を揺さぶるシーンを撮ることはできるという見本みたいなシーンだった。

映画を見ながら思いだしたことがあった。
それは中学生の頃、母親といっしょに、新潟県に住む祖母の葬式に出向いたときのこと。
そこは妙高山の東側に位置する飯山街道沿いの、新潟と長野の県境にある寒村だった。
母は祖母の家に着くなり、いつもは陽気な叔母さんといっしょにめそめそしだした。
母の声が急にか細くなり、そのうち「わーも、ここへ来て」なんとかかんとかと言い出したのには面食らってしまった。
「わー」というのは「おまえ」、つまり私のことを指すということは想像できたが、母が突然田舎言葉をしゃべり出したことが、とても不思議だった。
『秘密の森の、その向こう』を見て、あのときの光景が、私なりに少しは分ったような気がした。
それは、祖母の死に直面した母と叔母さんの姉妹が、一気に幸せだった幼い子ども時代に戻ったのでないかという思いだった。
そして、クレープではなく、ふかし芋なぞを手にした幼い母と叔母さんが、きゃっきゃと秋の野山を駆けずりまわっている姿を想像する。
しみじみと琴線にふれる1本だった。

傑作。


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