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2020年11月23日11:00

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新国立劇場世界初演 歌劇《アルマゲドンの夢》〜その1

11/21(土)の行程ではアーティゾン美術館が先だったが、まず今回の上京の主目的である新国立劇場公演オペラ《アルマゲドンの夢》についてレポートする。

今年3月には本公演の発表があって、新型コロナの感染状況がどうなっていようと、その時点でもう観に行く事を決めていた。
その理由は、藤倉大が日本の若手作曲家の中で最も期待される人物である事、そしてこの公演が世界初演となる事、その2点が大きかった。

藤倉大は1977年大阪生まれ、15歳で渡英、現在も英国在住。今年43歳になる計算だ。
藤倉については、これ迄何度か日記に書いている。

・ブーレーズ追悼番組(2016.2/1放送)
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950683041&owner_id=3341406
・リサイタル「藤倉大”個展”」(2018.10/20公演/2020.3/6放送)
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974975732&owner_id=3341406
・《グローリアス・クラウズ》名古屋フィルハーモニー第470回定期公演(2019.7/6公演)
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1972198913&owner_id=3341406
・同件新聞記事(2019.7/20掲載)
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1972324786&owner_id=3341406

大野和士が新国立劇場オペラの芸術監督になったのは2018年9月だが、その挨拶の中で、日本人作曲家によるオペラ上演を約束した。
その第1弾は西村朗(1953- )作曲の《紫苑物語》(全2幕/日本語)で、2019年2月に同劇場で世界初演された。
以下レポート参。
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1971499267&owner_id=3341406

そして、それに続く第2弾が、今回の藤倉大作品である。藤倉は西村より24歳若い。2世代若い藤倉がどんなオペラを書くか、大いに期待された。
藤倉は大野に委嘱され、2018年に完成させた。原作はH・G・ウェルズ(1866-1946)の《世界最終戦争の夢》(1901)で、台本は英国在住の藤倉の友人、詩人・作家のハリー・ロス。したがって言語は英語だ。

◆作品と公演のデータ。

作曲 藤倉大
原作 H・G・ウェルズ『世界最終戦争の夢』(A Dream of Armageddon)
台本 ハリー・ロス《アルマゲドンの夢》(英語/全1幕9場)

演出 リディア・シュタイアー
美術 バルバラ・エーネス
衣裳 ウルズラ・クドルナ
照明 オラフ・フレーゼ
映像 クリストファー・コンデク

指揮 大野和士
演奏 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団

出演
 クーパー・ヒードン ピーター・タンジッツ(T)
 フォートナム・ロスコ―/ジョンソン・イーヴシャム(2役) セス・カリコ(B・Br)
 ベラ・ロッジア ジェシカ・アゾーディ(S)
 インスペクター 加納悦子(Ms)
 歌手/冷笑者(2役) 望月哲也(T)
 子供兵士 長峯佑典,原田倫太郎,関根佳都(Boy・S/交替出演)

公演 2020年11/15(日),18(水),21(土),23(月/祝)〜新国立劇場オペラパレス
上演時間 1時間40分(休憩なし)

私の席は1階右ブロック4列33番。
今回は1〜3列に観客を入れなかったので、結果的に1番前の列になった。

◆あらすじ

大都市に向う通勤電車の中、若い税理士(フォートナム・ロスコ―)は見知らぬ男(クーパー・ヒードン)に声をかけられた、今君が読んでいる本は夢について書いてあるものか?
訝しむフォートナム。
クーパーは畳み込んで話す、夢と現実とが入り混じってしまう事はないか? 私は未来の時間、別の場所に生きていたのだが、夢の中で殺されたのだ、と。

夢中のクーパーは、政治的・社会的な問題には敢えて目を瞑り、美しく聡明な妻ベラ・ロッジアとの甘い新婚生活を送っていた。
ダンスホールに行くと、そこに現れたインスペクターの扇動によって若者達は戦争への恐怖を煽られ、ジョンソン・イーヴシャム率いる全体主義グループに取り込まれてしまう。
ベラはそれに立ち向かおうとするが、クーパーは彼女を宥める。ベラは、それではいけない、自由のために闘おうと逆にクーパーを説得する。
巨大な飛行機や戦艦が現れ、爆撃が始まり、人々は興奮の渦の中に陥る。
ベラは銃の一撃で倒れ、クーパーの腕の中で息絶える。
クーパーは、過去の時間の電車の中に移動したつもりが、子供のような兵士の銃によって撃たれ、乗客の中に倒れ込む。

(2人の死は全く唐突に訪れ、しかし見事に音楽化されていた。私は、特にベラの死に強い衝撃を受けた。真っ赤な衣装をまとって立つベラは、たった1発の銃撃によって撃ち抜かれ、それを受けた体勢のまま、床に倒れ込む事もなく凍り付いた、まるでストップモーションの映像のように。演出のリディア・シュタイアーにそうした狙いがあったかどうかは分からないが、私はそれを見て、即座にロバート・キャパ(1913-54)がスペイン内戦の最前線で撮った写真《崩れ落ちる兵士》を想った。それによってキャパは世界の一流報道カメラマンとして世に出た。キャパによってその死を記録された兵士は、今も我々の脳裏に、あの崩れ落ちようとする姿勢のまま永遠に存在している。)


何枚か、劇中シーンの写真を紹介しよう。
冒頭の巨大な映像、これは夢か現実か。
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電車の中。
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ダンスホールで。
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イーヴシャムと若い兵士達。中央壇上には子供の兵士の姿、何も分からぬままに。
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兵士等に取り囲まれたクーパーとベラ。
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原作は1901年に書かれたにも関わらず、第1次・第2次世界大戦へ雪崩れ込んでいく社会の動きや、凄惨な巨大兵器や戦いの様子を描いている。
ウェルズには未来を予言する力があったのかもしれない。
また、これに現在の政治家の発言や人々の動向を重ねる事も可能だ。
そうした傾向を一層鮮明にするため、台本作家ロスは、原作に手を入れている。
また、パンデミックの中、演出家のリディアは、この11月にこそ上演すべきだと訴え、その意図に沿って演出した。
こうした側面と本公演の価値は、次に紹介する公演主要スタッフのメッセージによって、明らかとなるだろう。
11/10、本公演開始の5日前に新国立劇場から特別配信されたものに、以下、若干の意訳を加えた。

◇指揮者 大野和士

藤倉大作曲の世界初演オペラ《アルマゲドンの夢》、これは英国の作家H・G・ウェルズ(1866-1946)の作品をオペラ化したもの。藤倉は、今、世界から注目されている若い世代の作曲家の代表選手である。
新しいオペラを委嘱した際、私は、テーマや人間性の問題等、現代人が共有できるような作品を是非書いて欲しいと頼んだ。
彼が選んできたのが、H・G・ウェルズが1901年に書いた『世界最終戦争の夢』という短編だった。その中には、(100年あまりのちの)現代に生きる私達が抱えている問題が含まれていて、特異なSF小説である。
藤倉がこの作品を今採り上げたいと願った一つの理由は、原作には全体主義や民主主義の危機等の問題が浮き彫りにされているのだが、そうした問題と向き合う”真の人間性とはどうあるべきか”、それを音楽を通して表したいという事だった。

台本を書いたのはハリー・ロスという若手英国人作家・詩人。彼は20年来藤倉と友人関係で、共同作業をずっと続けてきた。このコンビが今の世に《アルマゲドンの夢》というオペラを問う事となった。
この台本が、ウェルズの原作と一番違っている処は何処かと問われたら、まず主人公がベラという女性になった事。
ベラは人間の未来について考えを馳せる。普段は気付かないでいた、困っている人達、貧困に喘いでいる人達のため、自分に何ができるだろうかと、このオペラの中で何回も何回も、とても柔らかい優しい声で歌いかける。

このオペラのもう一方の主役は、現代の様々な問題に苛まれている集団。
集団は当然合唱によって描かれる。新型コロナの影響で本当に久し振りに集まった新国立劇場合唱団の精鋭48人が、その苛まれる人々、また迫る悲劇に気付かない人々、あるいは集団心理に流されていってしまう人々を演じる。
1人の天使のようなボーイソプラノ、彼の姿形は兵士なのだが、「アルマゲドン、アルマゲドン」とまるでレクイエムのようなコーラスの中で、彼が最後に何と言うか。このオペラの最大の聴き処・見処だ。

このオペラを演出するのはリディア・シュタイアー、今世界で引っ張りだこの女性演出家だ。
リディアが、主人公ベラの、今この世界をどう生きていったらいいのかという問いかけを、作品の中に埋め込んでいる。

私は今回、いろいろな意味で巡り合わせを感じている。
このオペラは新国立劇場にとって新しい一里塚になるのではないか。
ソリスト達、合唱、オーケストラ、劇場に関わる全ての人々が、衛生上の事に気を配り、万全の準備をして、皆さんをこの劇場に招き、是非このオペラと出会って頂きたい、そう心から願っている。

(続く)

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