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2016年02月28日23:16

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ブーレーズ追悼

現代作曲家の雄で指揮者としても活躍したピエール・ブーレーズが、今年2016年1/5に亡くなった。90歳だった。
それを追悼し、2/1のNHK-BS〈プレミアムシアター〉では記念番組が放送された。

放送は3部になっていて、
第1部「追憶のピエール・ブーレーズ〜現代音楽の巨匠をしのぶ」
第2部「ピエール・ブーレーズ IN ルツェルン音楽祭」
第3部「グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団演奏会」
という構成だった。

第1部では、ブーレーズと縁が深かった日本人作曲家2人が、彼の業績について語った。

藤倉大(1977- )は、ロンドン在住の若手作曲家で、ブーレーズがその才能を認めた。
藤倉は2003年にルツェルン音楽祭の教育プロジェクトで出会い、以来親交を深め、4度ブーレーズに捧げる曲の作曲を委嘱された。
ブーレーズは若い才能を育て導く事に全力を傾けた人でもある。
2009年にブーレーズは京都賞を受賞。その時も地元の学生達との対話を希望し、藤倉はその場を進行した。
「音楽の前では年齢も経験も関係ない」というのが、ブーレーズの持論だった。

藤倉が、現代に生きる作曲家として音楽とどう向き合うべきかと相談をした時、ブーレーズは、歴史から1歩でも前に行きたいと思うなら、こうすればそれができるかもしれないというものがあるのなら、新しい音や音楽の事だけを考えて突き進め、と教えられた。

藤倉は言う、「ブーレーズの死程、ひとつの時代が完全に終わったという事を明らかにする死はなかった」。

もう1人は作曲家でピアニストの野平一郎(1953- )。
野平は、パリでブーレーズ創設のフランス国立音響音楽研究所IRCAMにいた、また、これも彼が創設したアンサンブル・イティネレールでピアノを演奏した事もある。ブーレーズには多大な影響を受けた。
野平は、「ブーレーズの初期の作品が、西洋音楽の戦後音楽、それは前衛音楽と言い換えてもいいが、そうした1群の作曲家達を新しい方向に導いた」と言う。
また、作曲家ブーレーズの音楽史における位置付けをこうまとめている、
・・・クロード・ドビュッシー(1862-1918),オリヴィエ・メシアン(1908-92)等のフランス近現代音楽を更に突き進めた。またブーレーズは(フランス人でありながら)最初期から12音技法で作曲を行っていた。アルノルト・シェーンベルク(1874-1951),アルバン・ベルク(1885-1925),アントン・ウェーベルン(1993-1945)というドイツ・オーストリア音楽の潮流を受け継ごうとした作曲家でもある。つまり、色彩感覚と論理的方向性が彼の中で1つに統合されたのである。
その後は1970年代にIRCAMを立ち上げ、コンピュータをリアルタイムで動かす等、常に時代の最先端の音楽を書こうとした。

また、野平は、指揮者ブーレーズについても語っている、
・・・彼の指揮は「明晰」という事に尽きる。それが何処から来るかというと、彼のレーダーのような耳の存在によるという事になるだろう。
ブーレーズ本人も言っている、平凡な指揮者というのは、指揮をしている瞬間に耳が働かなくなる。体を動かす事に神経が行く為、耳で聴かなってしまうのだ。
彼のレーダーのようなあらゆる細部迄聴き込む耳と彼の冷静な動作とが、明晰この上ない音と音楽を生み出してきた。

この考え方については、番組第2部で演奏するドビュッシーの《遊戯》について、ブーレーズ自身が共通する事を言っている。
・・・感情を露わに表現する音楽ではない。優雅で繊細。しかし、表面上の美しさからはこの作品の深さは見えてこない。オーケストラでその深さを演奏する事は大変難しい。指揮が大袈裟過ぎると、その本質を見失ってしまう。適切な身振りによらなければ、精彩なこの曲の演奏はできない。

私は、指揮しているブーレーズの顔から喜怒哀楽を見出した事がない。常に冷静そのものである。
とは言っても、彼の作り出す音楽に表情がないという事ではない。アゴギーグとデュナーミクも存在する。但し、彼の音楽性が許容する範囲で。
彼の指揮は、はったりがない、よけいな事はしない、やたら力んでみたりしないから汗をかかない。結果、音と音楽が整理されて汚れない。その訳は、先に掲げた野平やブーレーズ本人の言葉で理解できるだろう。

ブーレーズと対極的だと私が感じるのは、例えばレナード・バーンスタイン(1918-90)。指揮台の上でのスタンドプレイ的パフォーマンスが極めて多い。こんな身振りは練習の時には絶対しないであろう、そんな動きが本番では目につく。飛んだり跳ねたり、当然流す汗も夥しい(笑)。彼の指揮した音楽からいやな濁りを感ずる事があるが、その原因は前掲の発言から察せられるのではないか、私はそんな感を以前から持っていた。勿論名演も多い人なので、否定しているつもりはさらさらない。
作曲家として目指す音楽も全く対象的な2人であった、前衛を行くブーレーズと、復古主義ないしは折衷主義のバーンスタイン。
考えてみれば、ニューヨークフィルは、バーンスタイン(在任1957-69)の後ブーレーズが常任指揮者を引き継いだ(1971-77)のだった。オーケストラとしてはホットからアイスへの大転換だった。

つい横道に逸れた。
第1部はこのくらいにして、第2部へ移ろう。
 

第2部はルツェルン音楽祭2009のライヴ映像と、ブーレーズのコメントによっている。

指揮 ピエール・ブーレーズ
演奏 ルツェルン音楽祭アカデミー管弦楽団

プログラム
・ドビュッシー 舞踊詩《遊戯》(1912)より
・ブーレーズ 《ノタシオン》(1945)のオーケストラ版(1980)より

以上、2009年9/10、ルツェルン文化会議センター・コンサートホール

・ブーレーズ 《レポン》(1980)より

同年9/3、場所は同。

《ノタシオン》は独立した12曲からなる。
指揮者は自分の考えでその中から選択し順番を設定する。
パズルのようであるが、1つの連続性は顕れてくる。
ここでは5曲が選ばれ、第1番,7番,4番,3番,2番という順序で演奏された。
どれを選びどう並べるかが自由である事から、自ずから即興性が生まれる。

《レポン》はIRCAMで作曲されたもので、コンピュータが関与する。
演奏形態は実に変わっている。
中央に小編成のオーケストラと指揮者。そこから少し離れた周囲に小ステージが6つセットされソリスト6人と楽器が入る。ハープ等は指揮者の真後ろに位置付けられ、間には客席が入っている。
他のソロ楽器は、ピアノが2台、シロフォン1台、ヴィブラフォン1台、東欧の民族楽器ツィンバロム1台。
6つのソロ楽器の音のみコンピュータに繋がれ、響きが電子的に作られ、生のオーケストラと競演して万華鏡のような不思議な拡がりと色彩が生み出される。
指揮者はこれら全体を即興性をもたせながらコントロールする。何とも大変な事だ。独立した両手の使い方は、通常の指揮とはかなり違う。ブーレーズによると、この手の形がどのソロ楽器に対する指示かという事を、事前に楽譜に描いて伝えておくとの事である。

ディレクター ギュンター・アッテルン,アンゲリカ・シュティーラー


第3部は、グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団が初来日した時のコンサートである。
2003年4/21、サントリーホールでのライヴ収録。

指揮 ピエール・ブーレーズ
演奏 グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

プログラム
・ベルク 管弦楽のための3つの小品op.6(1914-15)
・ウェーベルン 管弦楽のための6つの小品op.6(1909-10)
・マーラー 交響曲第6番イ短調《悲劇的》(1903-04)

上で書いたように、ブーレーズの片方の道筋である新ウィーン楽派の作品が先に並んでいる。12音技法が生まれる前、無調時代の作品だ。
この時代の音楽は表現主義と強い関係がある。シェーンベルクはカンディンスキー等と交流し、表現主義の絵も描いた。
その表現主義的音楽が何処から出てきたかと言うと、遡れば、世紀末のリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)、更に戻ればグスタフ・マーラー(1860-1911)という事になる。
(  )内の制作年を見て頂ければ判る通り、プログラムは時代を逆行する形で並べられている。
無調の曲は、その構造を律するものがない為、概して短い。長い曲も書けるようにと、その後、12音技法というルールをこしらえた訳である。
対して、マーラーはこってりとして長い。この交響曲第6番は80分程かかる。
ドイツ〜オーストリアの世紀末を挟んだ時代を遡る、ブーレーズらしいプログラムである。


ブーレーズというと、1968年に録音されたベートーヴェンの交響曲第5番が、私には大変衝撃的だった。演奏はニューフィルハーモニア管弦楽団。
高校生だった私は、ブーレーズが何者かろくに知りもしなかったが、そのテンポの遅さには驚いた、緻密で分析的な演奏で、こんな「汗臭くないベートーヴェン」もあるのか、と。
この時ブーレーズはまだ43歳だった。

他に、今も手許にあって愛聴してきたブーレーズ指揮のCDをチェックしてみた。

・シェーンベルク《浄められた夜》,ベルク《抒情組曲》
 1973〜74録音/ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団

・スクリャービン 交響曲第4番《法悦の詩》,第5番《プロメテウス》
 1995〜96年録音/シカゴ交響楽団

もう少しあったと思うのだが・・・。

それにしても、ブーレーズの代わりになる人は、指揮者も作曲家もいない。
 
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