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2019年07月10日18:26

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名古屋フィルハーモニー第470回定期演奏会 / 愛知芸術劇場〜その1

7/6(土)、愛知県芸術劇場コンサートホールで行われた名古屋フィルハーモニー交響楽団の第470回定期演奏会を聴いてきた。

〈プログラム〉

・オーケストラのための《グローリアス・クラウズ》(藤倉大)

・ピアノ協奏曲第2番ニ短調Op.40(メンデルスゾーン)
  Pf. ジャン・チャクムル

 〜休憩〜

・交響曲第1番変イ長調Op.55(エルガー)

指揮 マーティン・ブラビンズ

興味深いところが多々ある演奏会だった。
その1つは、現代日本の作曲家 藤倉大(1977- )の最新曲が演奏されるという事。
2つめは、浜松国際ピアノコンクールで第1位となったジャン・チャクムル(1997- )が協奏曲を演奏するという事。
その他にもあるが、おいおい触れていくつもりだ。

本番前にホワイエで、名フィル弦楽メンバーによりロビー・コンサートが行われた。

・弦楽セレナードホ短調Op.20(エルガー)より第1楽章アレグロ・ピアチェヴォーレ

当日のメインがエルガーによるシンフォニーである事からこれを選曲したのだろう。統一感が出た。
1892年、エルガー35歳になる年に作曲された。

この場で、コンサートマスターの田野倉雅秋から、本日をもって退任するとの挨拶があった。


ロビー・コンサートのあと、コンサートホールのステージで藤倉大によるプレトークがあった。
藤倉大とはどんな人物か、最新曲《グローリアス・クラウズ》がどのように作曲されたのか、それを作曲者どう語るのか興味津々だった。
インタビュアーは知らない人だったので名前をここに書く事ができない。
藤倉は1977年大阪に生まれ、15歳で渡英。現在も英国在住である。(今年42歳になる計算。)

フォト

この曲は、名フィルとケルンWDR交響楽団そしてイル・ド・フランス管弦楽団による共同委嘱によって2016〜17年に作られた。
委嘱による彼の作品は、既にオーケストラ、オペラ、室内楽等様々な形態で存在し、大きな評価を受け続けているようだ。
世界から最も期待される現代作曲家の1人と言っていいだろう、内外で多くの賞もとっている。
少しだけ賞をピックアップすれば、

・1998年 ポーランド・セロツキ国際作曲コンクール第1位、及び最年少出場者特別賞
・2004年 英国ロイヤルフィルハーモニック作曲賞
・2005年 オーストリア国際ウィーン作曲賞
・2007年 ドイツ・ヒンデミット賞
 等々。

《グローリアス・クラウズ》は2017年に完成、同年9/8に、本日の指揮者であるマーティン・ブラビンズ(1959- )による名フィル演奏で世界初演の予定だった。
ところが、近親者の病気のためにブラビンズが来日できなくなってしまった。元々ブラビンズに捧げられた曲であったため、やむなく世界初演は中止。
藤倉によると、彼の作品のうち20ほどがブラビンズによって初演されており、最多である由。2人は強い信頼関係で結ばれているようだ。
その後、一方の委嘱者であるケルンWDR交響楽団の演奏機会が訪れ、2018年11/2ケルン・フィルハーモニーホールで、ペーテル・エトヴェシュ指揮によって世界初演がなされる事となった。
更にそののち、今年2019年2/18、第67回「尾高賞」選考があり、この曲が尾高賞を受賞する事となった。名誉ある尾高賞を、藤倉はこれで3度目の受賞となる。
受賞を記念し、5/28東京オペラシティホールの「ミュージック・トゥモロー2019」で、ジュゼップ・ポンス指揮のN響による日本初演がなされた。
そして、今回の7/6、ようやくブラビンズと名フィルによる、本来予定していた世界初演コンビの演奏が行われる事となったという訳である。本人達にとって待ち遠しい事だったろう。

作曲と初演の経緯はこういう事だったが、では曲の中身はどんなものなのか、それについても、藤倉のトークから拾ってみたい。

ある雑誌に腸内微生物の記事があり、藤倉は興味を惹かれた。
微生物は、腸内だけでなく、皮膚にも空気中にも、地球上のあらゆるところにいる。
いろいろとリサーチしていくと、我々含めた動物達は、どうやらこの微生物等によって「生かされている」のかもしれないと思うに至った。
例えば、微生物は我々体内での消化吸収に欠かせない存在だ。体内で合成できないビタミンの一部は微生物によって生成されているという事もある由。
水の中では生きられないある昆虫が水の中に飛び込むとは、まるで自殺行為のように見えるが、それが微生物によって引き起こされている事が解った。つまり、その微生物が水を必要とするため、取り付いた虫を水に飛び込ませる事によって目的を果たすというのだ。
どうやって昆虫を水に誘導するのか、そのHow toは解らないが、人間においてもひょっとしたらそうした事が起っているのかもしれない。
まさに極小の微生物によって大きなものが生かされているのだ。
これらの事を知って、「いろんな小さなものが世界を作っているなんてオーケストラそのものじゃないか!」と思った。作曲を始めたのは、こんな経緯からだった。
ついては、微生物に関する書籍や論文をたくさん読んだ。専門家ともいろんな形で会話させてもらった。微生物研究で2015年にノーベル生理学医学賞を受賞した大村智氏にも直接会い、話を聴いた。こういう訳で、普段よりリサーチに随分時間がかかった作品になった。
「微生物がうわーーーっと(空気中に)舞っている感じでオーケストラ作品が始まる、というのはスケッチ帳では簡単だが、それらの細かい音を全て(音符で)書かないといけない。舞っているたくさんの音が全体にどう響き、動くか等のデザインも大変だった」と、藤倉は、目を輝かせ、如何にも嬉しそうな表情で話してくれたのだった。

曲は単一楽章で17分程の長さ。
初めて聴いたのでよく判らないが、既成の形式に則っているとは思えない。
木管金管凡そ3管と弦5部の編成で、10種類ものパーカッションが加わる。その中には「貝殻風鈴」という、名前も見た目も美しいものがあった。
「うわーーーっと舞っている感じ」は、木管と弦が細かく早い音で作った自由な波が上がり下がりし、幾重にも重なってキラキラと空を覆っているようにも聞こえる。
弦楽各部はフラジオレットのグリッサンドをトレモロで繰り返し奏する、1つに固まらず、あちこちで自由に。
半音階やトリルも多用され、様々な楽器が方々で響き合い、反応し合う。
それらは留まる事なく浮遊し、うねり、大きくなったり小さくなったりしながら、バラバラのイメージから時折り巧妙に音響的な統一もされる。
パーカッションはかそけき貝殻風鈴からヴィブラフォン、そしてティンパニ、バスドラム、ドラのような大型のものも加わり、時に湿度、色彩、清濁、また風向きや遠近感さえ表現する。
最後は急速な化学反応を起こし、囁きは叫びとなり、一気に音楽的頂点を作って、響きを空中に残し夢幻のように絶ち消える。

「グローリアス・クラウズ」というタイトルは、壮麗な雲、燦然たる雲塊とでも訳せばいいか? 「クラウド」という単語は、理科学的に使われると「混濁」という意味も持つらしい。
演奏後、ブラビンズが客席後ろの方にいた藤倉を呼んだ。
2人はステージ上でにこやかな笑顔で抱擁した。
 

(続く)
 
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