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2026年10月30日11:00

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映画『わたしの知らない子どもたち』/西川美和~3/end

(続き)

琴子は、孤児院「隣相館」に入寮する事となった。
ここにやってきた孤児らは、まず庭にあるドラム缶の風呂に入ってきれいにさせられる。
男子姿の琴子は逡巡していたが、とうとう衣服を脱ぎ始める。
と、鷹間乃生館長(吉田羊)が気づいて走り寄り、タオルで琴子の身体を覆い、訳も訊かず抱きしめて押し留めた。
琴子は疎開先より東京に戻ってから、初めて声を上げて泣いた。

「隣相館」に琴子がいる事をつきとめた元担任の曽根がやってきた。
だが、琴子は曽根と視線を合わさず、大人の言う事はすぐひっくり返る、大人はすぐ忘れる、先生も教室では「一億火の玉」となって鬼畜米英と戦わねばならないと言ってきた、と。
私は教師を辞めたと曽根は言い、琴子に詫びた。

しばらくすると、別の部屋からピアノを演奏する音が聞えてきた。
琴子はその部屋へ歩いていった。ピアノを演奏していたのは、父の友人だった男性。曽根に長崎から手紙を送り、琴子の行方を尋ねていた人物である。
ショパンのワルツ(第10番ロ短調Op.69-2)のゆっくりしたメロディは、琴子の心に沁みる。
男性は隣に座るようにと席を少し空けた。
琴子はそこに行って、ワルツのメロディを一緒に弾き始めた。
琴子にとって、戦後は、男と偽って生きてきた時間であり、大好きな音楽を失っていた時間と等しい。ようやく彼女は人間を取り戻す。
父の友人だった男性は琴子を引き取る事にしたいと考えていた。

東京を離れる前、琴子は将吉に会いにいった。
将吉は女の子の姿をした琴子を見ても驚かなかった。やはり彼は気づいていながら知らないふりをしていたのだ。
将吉は「茂男じゃねえんだろ」と言い、琴子は初めて本名を名乗った。琴子、いい名前だねと、将吉は小さな声で言った。
学校教育法(1947)が改正されて中学も義務教育になった。将吉も中学に行こう、そう琴子は誘った。
将吉は袖をまくり上げた、そこには消す事のできない入墨が彫られていた。
彼は『すばらしき世界』の三上正夫のように裏社会で生きていく事になるのか。
「琴子、生きろ」そう言って将吉は去っていった。その言葉には、「表社会で」という含意がある。

ラストシーンは汽車の中。曽根と、セーラー服を着た琴子。
先生に戻るの?と琴子は訊くが、答えない曽根。
曽根は開けた窓から行く先の方を「ほら」と言って指さし、微笑んだ。
汽車はおそらく死んだ父の友人が住むる長崎に向かっているのだろう。
琴子はなかなか窓から顔を出さなかったが、ようやく顔を出して、少しだけ微笑んだ(ように見えた)。
これは私の勝手な憶測だが、この先、曽根と琴子は長崎駅に降り立って、未だ原爆の膨大な被害から癒えない長崎の街を見る事になる筈だ。

エンドクレジットの前で、戦争孤児が12万人以上いた事、国の支援は充分でなかったとのテロップが流れる。
「12万」人は1948年の旧厚生省調査の数字で、沖縄は含まれず、路上で暮らすようになった子供などは入っていないとの事だ。
もう世界に戦争は起こらないと思っていたが、80年後の現在、ウクライナに、ガザに、同じような孤児がたくさんいるに違いない。
全く他人事ではない、西川美和の思いが伝わってくる。


原案・脚本・監督 西川美和
撮影 笠松則通
美術 三ツ松けいこ
衣装デザイン 小川久美子
衣装 岩崎文男
ヘアメイクデザイン 酒井夢月
編集 菊池智美
音楽 原摩利彦
VFXスーパーバイザー 上田倫人,高橋正紀
VFX 「白組」

原摩利彦の提案で、メインテーマ《太陽と子どもたち》は、晩年の坂本龍一が東日本大震災後に育てた東北ユースオーケストラが演奏した。彼ら若者達も震災直後から琴子と同じように音楽を失っていたのである。

出演 殆ど文中の役名のあとに( )書きした。
琴子を演じた小八重葵美は500人に及ぶオーディションの中から選ばれた。映画出演は初。

蛇足を加えると、ラストの汽車の開けた窓から行く手を見るシーンは、エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチの合作『明日へのチケット』(2005)へのオマージュだと私は思っているのだが、どうか。
下のリンクは『明日へのチケット』のレポート。(2006.11.21記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=273550543&owner_id=3341406&from=list_diary_search

2026年/日本


〈参考〉
東京FM「坂本美雨のディアフレンズ」
 ゲスト 西川美和
 放送 10.13

「通販生活」2026年7月号
『”わたしの知らない”戦争を”子どもたち”にも観てもらえる映画に』
 インタビュー 西川美和
 聞き手・執筆 渡邊玲子
 発行 2026.7.15、カタログハウス

「婦人画報」?
『子どもが見られる戦争映画、それが基準』
 インタビュー 西川美和
 聞き手・執筆 冨永由紀
 発行 不詳

映画のパンフレットは売り切れで買う事ができなかった。
 
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