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2019年01月20日13:12

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やまなし

私は、先に、「宮沢賢治の小説は、昔話ではないけれど、非常にリズム性のある作品である」と述べたが、小説というより童話といったほうがいいかもしれない。しかし、大人が読んでもロマンティックであるし、自然のこと、命のことなど多くのことを考えさせる力を持っている。だから、哲学的な童話と呼んだ方がいいかもしれない。
先に紹介した、「狼森と笊森、盗人森」「セロ弾きのゴーシュ」「氷河鼠の毛皮」「北守将軍と三人兄弟の医者」「なめとこ山の熊」にひきつづき、その他の素晴らしい作品を紹介したい。

宮沢賢治 やまなし
 小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。

一、五月

 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。
『クラムボンはわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『クラムボンは跳ねてわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
 上の方や横の方は、青くくらく鋼のように見えます。そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
『クラムボンはわらっていたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『それならなぜクラムボンはわらったの。』
『知らない。』
 つぶつぶ泡が流れて行きます。蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六粒泡を吐きました。それはゆれながら水銀のように光って斜めに上の方へのぼって行きました。
 つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまったよ………。』
『殺されたよ。』
『それならなぜ殺された。』兄さんの蟹は、その右側の四本の脚の中の二本を、弟の平べったい頭にのせながら云いました。
『わからない。』
 魚がまたツウと戻って下流のほうへ行きました。
『クラムボンはわらったよ。』
『わらった。』にわかにパッと明るくなり、日光の黄金は夢のように水の中に降って来ました。

https://www.youtube.com/watch?v=0Eese0JgWMg


クラムボン とは?  諸説あるのですが、笑ったり、跳ねたり、死んだり 消えたり する蟹の口から出る泡が有力。しかし、私は、「水の中に差し込む太陽の光」だと思います。



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