mixiユーザー(id:33884029)

2020年07月21日08:23

7 view

水田農業のあり方(その3)

水田農業のあり方(その3)
第1章 誰が支える日本の農業(その2)


第2節 水田農業の近未来



作付け面積で1ヘクタール未満の農家が102万戸。1ヘクタールは1万平方メートル。一辺が100メートルの正方形の面積である。けっこう広いと思われる読者もおられることであろう。けれども、土地利用型農業の場合、1ヘクタールの規模で職業として農業を営み、家計を支えていくことは不可能である。戦後しばらくの時代、つまり日本社会の所得水準が現在よりはるかに低位にあった時代には、1ヘクタールの水田農業でも職業として成り立っていた。というよりも、1ヘクタールの農業が標準的な規模であった。1950年に終結した農地改革で生まれた戦後自作農の平均規模が1ヘクタール弱だったのである。
それから60年。高度経済成長がスタートした1955年を起点として、半世紀後の2005年の一人当たりの実質所得は7・7倍に上昇した。半世紀のあいだに、この国の人々は8倍の物やサービスを生産し、8倍の物やサービスを消費するようになったわけである。農業の経営規模拡大も急速に進んだ。ただし、それは畜産や施設園芸に代表される集約型農業と北海道の鳥利用型農業のことであって、都府県の水田農業の規模に目立った変化はなかった。規模を拡大した水田農家も存在するが、その割合はごくわずかにとどまっている。
1ヘクタールに満たない規模の水田農家を経済的に支えてきたのは、農業以外の仕事による所得である。また、時がたつにつれて年金による所得の割合も上昇している。高齢化が進んでいるからである。農業以外の仕事にも従事している農家を兼業農家と呼ぶ。戦後の都府県の水田地帯の農家の多くは、兼業農家として生計を立てる道を選んだわけである。経済成長とともに農村部にも雇用機会が広がったことも、兼業農家を支えた社会条件として見逃せない。
さらに、1960年代後半に登場した田植機の普及によって、小さな兼業農家でも使いこなせる小型の機械化体系が整えられたことも大きい。
もうひとつ付け加えるならば、世帯内で消費されるコメや親類などに贈与されるコメの割合が高い点も小規模稲作の継続を促す要員として作用したはずである。(注:コメを販売しないいわゆる自給的農家は、昔はなかったのだが、1990年ごろに突如としておら割れ、以後、90万戸近くで推移している。)
こうしたいくつかの条件のもとで、都府県の水田農家の多くはさしあたり小規模な稲作を継続する選択を行なったわけである。安定兼業農家というライフスタイルは、戦後の経済成長に対する農家の合理的な適応行動の結果にほかならない。
水田地帯の兼業農家は安定的な存在であった。息子や娘の世代が恒常的な勤務先で仕事に従事し、親の世代が家の農業をまもるかたちである。とくに昭和一桁生まれの層の厚さは日本農業のひとつの特色であった。ところが息子や娘の世代になると、農業への関与は著しく弱くなる。昭和一桁世代の引退は、ハウスで稲を準備し、田んぼの稲の管理を担当していた人材のリタイアを意味する。多くの場合、兼業農家を引き継ぐのは、田植機はかろうじて操作できるものの、機械の故障や稲の病気にはお手上げの団塊世代以降の世帯員である。このような状況のもとで、農家の数自体も急速に減少しつつある。
裏返せば、農地を貸し出す農家が増加している。このトレンドは今後ますます強まるに違いない。問題は、この農地を引き受ける側の農家の動きが全体として弱いことである。


ところで、マスコミではよく大規模農業、あるいは大規模経営という表現が使われる。水田農業の場合であれば、10ヘクタールの規模があれば、ほぼ例外なく大規模と形容される。平均規模を大幅に上回っているからである。けれども、農業所得の水準という点では、10ヘクタールの水田農業は農業以外の勤労者と到底肩を並べることはできない。したがって、10ヘクタール程度の水田農家を大規模農家と呼ぶべきではない。大規模農家というわけではないが、そのレベルの規模の農業経営に対して、それを標準的な農業と呼べる状態を作り出すことこそが求められているのは間違いない。

しかしながら、少なくとも数集落に一戸は専業・準専業の農家(20ヘクタール、30ヘクタールの規模の水田農家)が活躍し、その周囲には10ヘクタールないしはそれより小規模の兼業農家や高齢者農家などがそれぞれのパワーに相応しい農業を営むかたち。これが近未来の水田農業の基本的なビジョンだと思う。筆者は、日本の社会にとって農村のコミュニティを引き継ぐことが大切だと考えており、広い農村にぽつんぽつんと大規模経営が散在するビジョンには賛成できない。





0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する