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日記一覧

 何もかもが怪しかった。店のある場所、それを経営している人、そこに働く女、そこに集うマニア。今から三十数年前のSMは、今よりも高級だったが、今よりも怪しいものだった。たとえば、服装などは、今よりは、きちんとしていた。とくにマニアの集いという

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 パソコン通信がはじまったとき、筆者は、自分がSMに妄想を抱いていた昔を思い出していた。毎日のSM撮影の刺激の中で、それは、生身の女の裸よりも、耳元にある囁きよりも、そして、悲鳴や怒声よりも魅力的だったのだ。 理由は行為の背景にある世界観の

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 まだ、若かった筆者にとってSMの撮影ほど楽しいことはなかった。もしかしたら、恋愛よりも、それは刺激的で楽しいことだったかもしれない。それは分からないのだ。何しろ、恋愛とSMが結びつくほどには筆者はモテてなかったし、そもそも、SMの撮影以上

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 何故あのとき、売り上げに拘ったのだろうか。 アダルト商品は売れていた。ゆえに豊富な製作費を手にしていた。売れていたのはマニア雑誌ではなく、ビニ本とビデオだったのだろうが、ビジネスの方法は、貧しいながらに、マニア雑誌を作っていた頃と、ほぼ同

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 官能文学はその他のエロビジネスに一矢報いることが出来るのだろうか。それとも、エロビジネスは、やっぱり、下品な立ち飲み屋の安酒のようになるのだろうか。 筆者は、世の中がどんなに不景気でも、エロビジネスは高級であり続けると信じていた。安ければ

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あのこれ(その13)
2015年02月21日13:26

 店には取材する予定の女王様とママだけがいた。おそらく二人は昨夜から家に帰っていなかったのだろうと筆者は思った。ママは、せっかくだから体験取材にしようと言った。カメラマンも同行していないのにそれは無理な話だ。しかし、それでも、ママは、体験だ

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あのこれ(その12)
2015年02月20日13:30

 取材記者というものは、もし、出版にカースト制度があるなら、最下層の人間なのではないかと筆者は思っていた。出版社の社員は、それなりに恵まれた生活をしていた。作家やカメラマンは、儲かるかどうかは別として、先生と呼ばれていた。取材対象者たちは、

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あのこれ(その11)
2015年02月19日13:02

 古いマンションには階段がなく、五階まで重いカメラ機材を抱えて昇った。薄いグリーンの鉄の扉は、鉄ながらにその薄さが分かるような簡素なもので、その上、ところどろにある薄い緑が剥げた場所からは、何故なのか濃い緑が露出していた。そして、隣のドアに

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あのこれ(その10)
2015年02月17日13:28

 普通の風俗取材は、如何わしい夜の街に入って行くことになる。カメラバックを抱えていかにも業界人に見える筆者にも平気で誘いをかけてくる男や女たちがいる道。その中を縫うようにして歩き、酔っ払いや肩が触れてもケンカになりそうな男たちを上手に躱しな

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あのこれ(その9)
2015年02月16日04:11

 バルサ材を利用して彼は冷たい石の壁を描いていた。そして、アクリルを利用して、窓に鉄格子を作っていた。それがどのように作られるものか、それは筆者には分からなかったが、暗いSMクラブのプレイルームでは、それだけの演出で十分だった。 作っていた

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あのこれ(その8)
2015年02月15日14:49

 喫茶店で何が大事かと言えば、やはり、一番は店の雰囲気だった。別に綺麗であればいいとか、雑然としているのはダメだとか、生活感のあるのは嫌だと言うのではない。地方取材のとき、たとえばそれが大阪や博多や札幌のような都会だったとしても、筆者には知

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課題小説
2015年02月14日13:41

 車を停めて歩武はカメラバックを背負った。獣道が少し人間用に広げられた程度の山の中に足を踏み入れる。同僚の編集者の二人は、あまりの恐怖に車から出られなかった。エンジンをかけたまま、ラジオのボリュームを上げて震えている。そうした状況は、はじめ

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あのこれ(その7)
2015年02月13日13:21

「私、好きだったんです。あの雑誌」 なんと彼女は、その当時に私が出版社に隠れてこっそり作っていたマイナーエロ雑誌の『暗い場所』のファンだったのだ。この雑誌については、いつか語ろう。「もっとも惨めで、もっとも恵まれない編集長が、たった一人で作

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あのこれ(その6)
2015年02月12日13:25

 そのM女は魅力的だった。愛らしい顏で細身で小さな身体ながらに胸とお尻だけがキュッと突き出ているのだ。その上、望まれるプレイはたいてい何でも出来てしまう。 あの頃は、まだ、SMは今ほど知られたものではなく、SMクラブでも、一本鞭を受けられる

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課題小説
2015年02月11日14:36

「絵を変えたんですね」 賢治は店に入ると、狭いカウンターの中でワイングラスを磨いている店主に話しかけた。「いえ、その絵は、この店をはじめたときから、そのままの絵。レオノール・フィニの偽物ですよ。リトグラフでもプリントでもなく、別の画家の描い

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あのこれ(その5)
2015年02月10日13:47

 彼女は女王様という職業だった。長身でスタイルがよく、胸と尻は小ぶりだったが、それを補うほどの美しい顏をしていた。瞳が大きく猫のようで、そのスタイルには似合わない幼く愛らしい顔だった。性格は内気で、どうして、こんな女の子がSM嬢になったのだ

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あのこれ(その4)
2015年02月06日14:10

 コーヒーの味など本当に分かっているのだろうか。筆者は、今も、ときどき、そのことを疑問に思うことがある。美味しい不味いと感じていることは確かだ。しかし、それは本当に正確なのだろうか。 たとえば、美味しいと感じたコーヒーと全く同じものを別のと

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あのこれ(その3)
2015年02月05日12:02

 廃ビルの地下。まるでテレビドラマのようだと筆者は思った。何しろ、その廃ビルの地下でSMショーをやるというのだ。それだけで現実感を喪失していた。 取材ではない。そこに筆者がいたのは、お客のふりをして、その営業の様子を探ってほしいというSMサ

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あのこれ(その2)
2015年02月04日13:41

 あの頃は、と、読み手の都合も考えずに筆者は書く。書き手としては最低の表現である。筆者の今の年齢も知らなければ、筆者がいつ頃、どんな仕事をしていたのかも知れない人にとっては、筆者が「あの頃」と、書いても、それがいつの時代なのか分からないのだ

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あのこれ(その1)
2015年02月03日13:43

 電子書籍というものについて考える上で、もう、ひとつの重要な課題を筆者は持っている。それは、電子書籍と官能の問題である。 電子書籍の可能性について、いくつか考え、提案のような愚問のようなものを投げかけてきたが、そろそろ、鹿月舎としての本題で

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 業界紙、小冊子、会報という小さな本は、これまでにもあった。電子書籍時代にも、そうしたものはあり続けることだろう。 しかし、その考え方は変わってくるかもしれない。これまでは会費があって、会費を払っている会員に対して本が配られていた。しかし、

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