先日、私用があって、新守谷という駅の東横インに一人で泊まっていた。ホテルは駅前だというのに、夜になると歩いている人もいなかった。ホテルそばの若い人をターゲットしたようなパブのチーズは美味しかったのだが、お客がまばらでは長居が出来なかった。
最近は、どうにも退屈な世の中になった。何もかも面白くない。書く気力どころか、どこかに行く気力も、食べる気力も減少している。身体の半分が鉛になったような気分なのだ。半分鉛では何をしても楽しくないし、鉛の部分は身体のお荷物なだけで衰えた腹筋よ
筆者はこんなふうに考えている。人間にとって、もっとも快楽の大きなもの、それは成長なのではないか、と。だから人間は子供の成長を見ることが楽しいのではないか。音楽もスポーツも、その他の趣味も、成長しないままに楽しいということはないのではないだ
「ここの支払い、本当に出来るの。ここのケーキは、ちょっと特別な値段なのよ。別に、私が払ってもいいのよ。あのね。特別な物は特別な人としか食べたくないの。分からないでしょ。この感覚が」 六本木のお洒落なカフェだった。たかがカフェの支払いぐらい出
「料理って、男が作るものでしょ」 SМクラブの慰安旅行のようなものには、しばしば、誘われたものだった。筆者が会社員ではないために時間が自由だと知っている上に、取材用の車を持っていることも知っているからだったのだろう。車を持ってフリーなのはカ
「食の趣味の合わない人とはセックスの趣味も合わない。そんな当たり前のことに意外と気づいていない男が多いのよ」 そう言いながら長い髪を揺らしてシャンパングラスを傾けたママの深紅のロングドレスの下は全裸だった。どうして全裸と分かるのかと言えば、
「最高の食事はセックスを忘れさせてくれるし、最高のセックスは食欲を忘れさせてくれるのよ」 その女のプロポーションは最高だった。別にプロのファッションモデルの裸を生で見たことがあるわけではないのだが、それに劣らない、と、筆者は勝手にそう確信し
「栄養補給と食事って違うものですよね」 カロリーメイトを齧りながら、その男は言った。真夏の午後二時。SМクラブの受け付けの小さな事務机を挟んで筆者とその男は座っていた。四畳あるかないかの小さな部屋。同じビルの別の部屋に女の子たちの待機室とプ
「わざわざ来たから美味しいんじゃない。この空気、この店、ここの水、全てが味なんじゃない。そして、食べ方、誰と食べるか、何もかも拘って、滅茶苦茶面倒だから美味しいんじゃない。かんたんな食事はね。食事じゃないの。餌なのよ」 午後二時。筆者はSМ
「食べ物に興味のない男の女に対する執着って、ただの依存だと思う。私は、そんなの少しも信用してない」 暑い盛りはずいぶんと前に終わったと思うのに、その部屋は寒かった。寒過ぎるぐらい寒かった。その寒い部屋のテーブルの上にまな板をのせ、その上で冷
「もっと、こねるように、もっと、汚らしく、ねぶるように擦りつけるんですよ」 嬉々として筆者に語りかける編集者とは違い、筆者は不安に表情を曇らせていた。こんなものを撮って使い物になるのだろうか、と、そう考えていたからだ。SМクラブの女王様とМ
「一人で食事をするのは絶対に嫌。でも、もう、支度しちゃったんだもん。これ明日までもたないの」 台風が近づいているのは分かっていた。しかし、東京で台風と言ったところで、たいていは移動に支障は出ない。ゆえに台風が来そうだから取材をキャンセルした
「最初はすごい嫌悪感だった。嫌しかないって感じだったの」 厚手のカーテンから夏の強い陽が差し込んでいた。遮光されているといっても暗室にいるわけではない。カーテンの隙間から差し込む陽には容赦がない。昼間から暗い部屋を演出するために厚いカーテン
「リンゴを齧る女を見るのが好きな男はМで、桃にかぶりつく女を見るのが好きな男はSなんだよ」 なんとも無茶な理論である。その男は鳴りもしない電話を見つめながら、そんなことを言った。取材予定は午後二時。午後一時には来ていなければならないМ嬢は、
風俗取材は、たいてい午後の早い時間に行われた。夜の仕事であるから午前中から取材というわけにはいかなかったのだ。別に、それに合わせていたわけでもないのだろうが、たいていのエロ編集者たちも夜型だった。撮影といえば朝から動くくせに、日常は夜型な
夜も深い時間になると、やっぱりガメラはお茶から酒と飲み物を替え、いつものように、ウトウトとしながら、それでも、企画について、官能について語り続けていた。「お前って、いろいろ悪口言いながら、でも、皆のこと好きだよな。お前はさあ
「お前はさあ、地球で生まれて、地球で育っただろう」「お前もそうだろう。地球で造られて、ああ、でも、宇宙には出ているか」「まあ、俺がロボットかどうかの話は面倒だから、このさい、一度、置いておくとしてな。俺は、どうして、いろいろな宇宙の星から、
ガメラの胃袋は無限だ。おそらく内部に食物を別の栄養素に変換する装置があるのだ。宇宙を長く旅する上で、それは重要なのだ。ガメラの性嗜好はスカトロ趣味と疑ったこともあるのだが、あれは、ただの機能だったのかもしれない。「お前、今、俺の悪口を考え
「俺たちは、まあ、卵なわけでな。卵となると、ちょっとエロティシズムが違って来るよな。まあ、でも、出産は、ちょっとしたドラマだけどな」「出産。生産だろう。製造かなあ」「俺さあ。たまに、こう、大きくため息ついちゃおうかなあって思うことあるのよ。
「お前って、他人の悪口が得意だろう」 お茶をすすりながらガメラが遠くを見るような目で言った。ガメラとも長い付き合いになるが、やはり、筆者のことはそのように見ているのかと思うと、少し寂しくなった。「得意なんじゃないよ。私は言うべきは、きちんと
「いつも思うことなんですけどね。質量保存の法則ってあると思うんですよ。ガメラさんが、遠い星の進んだ科学力で人間になったり、小さくなったりするのはいいんですけどね。どんなに科学が発展しても、質量保存の法則は、変えられないって思うんですけどね」
SМと相性のいい、というものがあった。オカルトやホラーはもともと相性がよく、SМに規制があると考えていた頃には、そうしたものを利用してSМを表現していた。魔女狩りとか、サバトとか、猟奇事件を扱うポーズで、実は、SМを扱っていたりしたのだ。
昔はよかったとか、最近の若い者はとか、そんなことが書きたいのではない。こうして、お洒落だったと筆者が感じたSМのことを書いていて分かって来たこと、見えて来たことがある。昔がよかったなんてことはなかったし、昔のSМにはお金持ちしかいなかった
目覚めたらSМパーティに参加させられていた男という単純ストーリーを仕立てた。本当の性癖はSなのに、そこでМとして扱われてしまう。Sだ、自分はSなのだ、と、言い張るのに、縛られ、そこに参加している男女から嘲笑され、同じようにМとして参加して
まだ、インターネットではなく、パソコン通信と言われていた時代のことだった。筆者は僅か二千文字程度の小さな記事を掲載するために、その十倍以上の原稿を書かなければならなかった。掲載雑誌が厳しいかったからではない。二万文字からの原稿を求められて
筆者の前で、はらりとローブを落とすと、豊な胸、少したるみかけた腹部、やわらか過ぎるように見える臀部、そして、そんな熟年の色香漂う肉体には似合わない幼い亀裂までが露出した。若い女のように胸やアソコを手で隠すということはしない。まるで
「頼まれてくれないかなあ」 SМクラブのオーナーから電話があったのは午後八時を過ぎた頃だった。筆者は自宅でしなければならない仕事に手をつけられずにいた。スランプだったのだ。 電話の要件は、熟年のマニアカップルが緊縛の出来る男を求めて
演奏を合図とするかのように、ステージ前のスペースに女たちが入って来た。彼女たちは、それまで会場にはいなかった。三人がボンデージ姿で、一人は全裸に首輪だけを付けていた。よくあるショーだな、と、そう思った。ところが、ショーは変わっていた。いわ