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2015年02月20日13:30

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あのこれ(その12)

 取材記者というものは、もし、出版にカースト制度があるなら、最下層の人間なのではないかと筆者は思っていた。出版社の社員は、それなりに恵まれた生活をしていた。作家やカメラマンは、儲かるかどうかは別として、先生と呼ばれていた。取材対象者たちは、雑誌のお客さんでもあるわけだから、これは位が上だ。その上に、スポンサーとかクライアントというものもいた。
 電車が止まるような嵐の日でも、取材の予定があれば、現地に向かう。断るのは向こうであって、こちらではない。取材記者というものは、その予定を天候を理由に変更していいような身分ではなかったのだ。それが風俗取材なら、なおさらだった。今は、そうでもないのだろうが、やはり、あの頃は、多くの風俗店が裏の業界と地続きだったから、予定変更で、どんなクレームに発展するかも分からなかったのだ。
 その日も台風だった。激しい雨を考えて筆者はカメラバックに防水スプレーして、さらに、そのバックをビニールで覆い、バックの中には、帰りのビニールと予備のビニールまで入れた。電車は動いていた。そうしたケースでは駅まで行って、結果、女の子が来られないから延期ということが多い、しかし、筆者にとっては、そのほうがありがたかった。雨の中を歩かなくてもいいからだ。電車だけなら台風は関係ない。
 ところが、駅から電話をすると「よかったじゃない。この台風でお客さんも来ないだろうから、ゆっくり取材出来るわよ」と、ママは明るく言った。駅から、その店までは三十分近く歩く。覚悟を決めて、筆者は傘を持つのも困難な雨と風の中を歩きはじめた。
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