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日記一覧

 二杯目のバーボンを飲んだところで疲れ果てた様子のジャンバー姿の男が入って来た。川の渡し船の船頭の亘だった。「疲れてるねえ。何往復したの」「六ですよ」「六って、ほとんど休憩なしじゃないですか」 亘はカウンターで飲んでいた私の隣に座ってビール

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 川原を歩いていると釣り竿が流れて来た。まだ、新しい。どこかの子供が流してしまったものだろうと、近くにあった枯れ枝でそれを引き寄せ川から引き揚げた。「すみません。ありがとうございます。助かりました」 声のするほうを見ると、川原で釣りをするの

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 子供の頃に「ターミネーター」という映画を観た記憶がある。確か、コンピュータによって人間が支配されてしまいそうになるという話だったように思う。そして、私は、今、まさに、人間はコンピュータによって支配された時代に暮らしているのだと感じている。

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十月の課題小説
2016年09月27日13:58

「どうするんだい」 強面の男に怒鳴られて私は地面にへたり込んでしまった。ヘッドファンで聴いていたクラシックは軽快に流れる小川のイメージに変わったところだったので、男の声はいっそう大きく聞こえた。「お前だけじゃないんだ。早く決めてくれ」 この

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 一人の男を裏切った。いや、何も、裏切ったのは一人というわけでもないので、では、言い方を変えよう。ある男を裏切った。 その男を裏切った理由を筆者は、たまに、サロンで面白おかしく語っている。金がなかったからとか、儲けたくなったからとか、いろい

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 鹿鳴館を作った男が最後にやった仕事は六本木の小さなジャズバーだった。あのマスコミの黄金期に大手広告代理店にいた男の最後の仕事が小さなジャズバーだったのだ。 筆者は、その店に入った瞬間から、その店で男の演奏するジャズを聴いた瞬間から激しく男

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 ある朝、目が醒めたらサロンが大金持ちになっていたという夢をサロンは見ない。お金がたくさんあったら、きっといいだろう。サロンは来年の存続の心配なんかしなくていいようになる。そんなにお金がなくても、少なくとも、来月も、再来月も、サロンはあると

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 筆者はひねくれている。どれぐらい、ひねくれているかというと、子供の頃に「将来成りたいものは」と、尋ねられて「ひねくれもの」と、答えていたぐらいに、ひねくれているのだ。ゆえに鹿鳴館サロンも、当然のように、ひねくれている。ひねくれているという

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 鹿鳴館サロンは何がやりたいのか。まだ、元歌をきちんと聞いたことのない「Day Dream Believer」という歌。正直、タイトルさえよくしらない、この歌をテーマ曲にしながら、サロンが夢見たことを書いていこうかと思う。 近いことは「企画のための企画会議」

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 二つのことを考えていた。オカルト雑誌時代のいろいろなことを思い出しながら、さて、次の企画はどうしようか、と、そんなことを考えていて、最後の二つに絞り、その二つでずいぶんと悩み考えていた。二つあるなら、どちらかを先にやって、どちらかを後から

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 筆者は、その姿に少し冷静になった。恐怖が筆者を冷静にさせるのはオカルト取材ですっかり身についた癖のようなものだった。「それで殴って死なないまでも俺が気絶したら、その後、こんなところに一人で怖くないか」 男はその筆者の冷静な言葉に少し笑った

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 山の中で遭難してしまったのではないか思ったことがあった。ハイキングコースの中にある呪われた祠の取材に行ったときのことだ。呪われた祠は、普段は出て来ることがなく、ハイキングコースを逸れたハイカーだけが、それを目撃し、目撃したハイカーはそのま

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再・書き方講座、課題作
2016年09月14日15:22

 酔って家に帰ると、マンションのドアにたくさんの貼り紙があった。一番上のものを読む。「約束の正午です。買い物なのかな、少し、時間をつぶして、もう一度来ますね。青空でも眺めてゆっくりして来ます」 そんな約束をした覚えはない。隣の家と間違えたの

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 最後に少し長い話をしたいので、今回は短く。 筆者は、幽霊というものが、もし、本当に、この世にいたとしたら、それは筆者たちには分からないようにいるのではないか、と、そう思うことがある。 たとえば、筆者はやはり変態なのだろうが、どこぞの愚かな

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再・書き方講座、課題作
2016年09月13日17:21

 嫌いな遊園地に親戚の子供たちと行ったのは、十一歳の夏休みのことだった。従妹たちも、その親も、私の妹も母も遊園地を楽しんでいた。しかし、私は、どの乗り物にも乗りたくなかった。乗り物が怖いのではなく、それをどのように楽しんでいいかが分からなか

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 地方取材で知り合いに会うことは珍しいことではない。エロ雑誌は風俗取材は、どの記者も同じような街に行くので、その近所の喫茶店などでは、しばしば知り合いの出版関係者に出会ったし、ホラー雑誌でも、取材は似たような場所に行くので、そこで知り合いに

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 あの夜は、とにかく不思議なことばかりだった。栃木のホラースポットを取材していたのだが、最初のホラースポットのホラーの噂のある石を探していたところで、全員が頭痛にみまわれた。車は男性カメラマンのもので自ら運転していた。他に女性編集者一人、モ

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 古くからサロンにいる人たちは気が付いていることと思うが、筆者の身体はかなり丈夫なのだ。だから、十年以上もサロンをやっているのに、一度も臨時休業がないのである。 しかし、そんな筆者も病気に倒れたことはあるのだ。 あれは、筆者が一人暮らしをし

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「怖いので同じ部屋にいていいですか」 筆者は地方の取材でビジネスホテルにいた。安いホテルだったので、部屋は二部屋用意出来た。しかし、先ほどまでの取材の恐怖から一人になりたくない、と、若い編集の女の子が言って筆者の部屋に来たのである。 もちろ

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 オカルト取材では音に注意しなければならない。たいていの危険は音によって回避出来るからだ。筆者は車の中の小さな異音に今でも過剰に反応してしまう。それは、その頃の癖なのだ。車や建物の外の取材中であっても音は気になる。足音、獣の鳴き声、石などが

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 筆者が、まだ、二十代の頃の話になる。 その頃のオカルト雑誌の編集長たちの多くは四十代だったと思うのだが、二十代の駆け出しの筆者には、かなり年長者に見えていた。ようするに怖かったのだ。 その怖い編集長が筆者に怒って電話をして来た。「あの写真

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 オーメンの一だったか、二だったか、とにかくオカルト雑誌ではオーメンの話題が多く見られた。そんな時代だった。そして、オーメンと言えば「666」だった。しかし、筆者たちを悩ませていたのは「3」だった。 オカルト取材は、たいてい夕刻に東京を出た

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 二つの出版社が合同で東北取材をしていた。経費を折半して、ネタを分け合うのである。二十年以上も前のことになるが、当時はそう珍しいことではなかった。筆者は編集ではなくライターだったので、これは美味しい仕事になった。何しろ、一度の取材で、二つの

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企画会議事前報告
2016年09月02日03:13

 恰幅の良い男が太いシャープペンの芯を取り替えながら、少しイライラとした声で怒鳴った。「私たちは何のために集まっているんですか。子供のお遊戯会の打ち合わせですか。児童の縁日の企画でもしているんですか。エロですよ。エロを作るのに性犯罪を抜きに

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瓶詰の手紙(その12)
2016年09月01日13:21

 偶然と考えればそれだけだという話がある。たとえば、筆者は同じ人に一日三回、思いもかけない場所で出会ったということがある。 オカルト雑誌の編集を頼まれて、ある弱小出版社に向かう午前中の電車で、その数年前につぶれて、それ以後、消息さえ分からな

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