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2015年02月13日13:21

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あのこれ(その7)

「私、好きだったんです。あの雑誌」
 なんと彼女は、その当時に私が出版社に隠れてこっそり作っていたマイナーエロ雑誌の『暗い場所』のファンだったのだ。この雑誌については、いつか語ろう。
「もっとも惨めで、もっとも恵まれない編集長が、たった一人で作る、もっとも売れないマニア雑誌、でしょ。私、ちゃんと覚えてるんです」
 嬉しいことを言ってくれる。雑誌を作る仕事をしていた。しかも、そこそこに売れていて儲かっていた雑誌を作るという仕事をしていた。そのギャラのほとんどを、筆者は売れもしないその雑誌販売のために注ぎ込んでしまっていただった。そこまでして、作っていた甲斐があったと、彼女の言葉で筆者はそう思った。
 筆者は三時間という時間を使って、彼女の人生の全てを聞き出そうと意気込んだ。ところが、インタビューは進まなかった。
「可愛いって、言われました。子供の頃も、大人になってからも、でも、子供の頃から、私はただ可愛いだけ。分かりますか。ほんの幼い頃から私の価値は身体、いえ、エロにしかなかったんです。運動してもダメ。音楽もダメ。勉強は一番ダメ。でもね。それでいいって言われてきたんです。可愛いからいいって。何も出来なくていい。何もしなくていい。私ね。子供の頃から、おっぱいを見せたり、お尻を触らせたりして生きていたんです。少し大人になってからは、セックスさせて、それだけで生きてきたんです。もっと、本当に可愛くてアイドルとかになれたらいいけど、そこまでは可愛くないし、モデルになるには身長がないしね。だから、私は男の人や女の人の言うがままにさせることしか出来ない女になってしまったんです。何でもしちゃうんです」
 そして、彼女は驚くことを言ったのだ。彼女はセックスで苦痛しか感じないと言うのだ。どんな男とセックスしても痛い、でも、それを喜ぶ男が多いことを知り、そのままSMクラブに流れて来たらしいのだ。痛がれば喜ばれる、と、彼女はそう思ってしまったらしいのだ。
 そんなM女に、それ以上、何の質問をすればよかったのだろうか。
 筆者は、記事の構成をインタビュー中心から写真中心にすることを決めて、三時間のインタビューのほとんどの時間を使って、彼女が好きな「怖い話」をして終えた。
 彼女なら、写真中心で記事は組める、と、そう思いながら喫茶店に入った。しかし、コーヒーの味は分からなかった。
 今なら、そんな彼女のさらに深奥に入り込めたかもしれないが、あの頃の筆者には無理だったのだ。あの味気ないコーヒー。今なら、電子書籍時代なら、そんな官能こそビジネスに出来るのではないだろうか。
 実は、このM女と筆者は十数年後に偶然、まったく別の場所で再会することになる。その話は、この企画の最後にでも書こう。書こうと、今は、そう思っている。
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